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text:jikkinsho:s_jikkinsho10-27

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text:jikkinsho:s_jikkinsho10-27 [2016/03/18 23:14] – 作成 Satoshi Nakagawatext:jikkinsho:s_jikkinsho10-27 [2020/06/20 13:03] (現在) – [校訂本文] Satoshi Nakagawa
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 ===== 校訂本文 ===== ===== 校訂本文 =====
  
-和邇部の用光といふ楽人ありけり。土佐の御船遊びに下りて、上りけるに、安芸国なにがしの泊にて、海賊押し寄せたりけり。+和邇部の用光((和邇部用光))といふ楽人ありけり。土佐の御船遊びに下りて、上りけるに、安芸国なにがしの泊にて、海賊押し寄せたりけり。
  
 弓矢の行方知らねば、防ぎ戦ふに力なくて、「今は疑ひなく殺されなんず」と思ひて、篳篥(ひちりき)を取り出でて、屋形の上に居て、「あの党や。今は沙汰に及ばず。とくなにものをも取り給へ。ただし、年ごろ思ひしめたる篳篥の、『小調子』といふ曲、吹きて聞かせ申さん。『さることこそ、ありしか』と、のちの物語にもし給へ」と言ひければ、むねとの、大なる声にて、「主(ぬし)たち、しばし待ち給へ。かく言ふことなり。もの聞け」と言ひければ、船を押さへて、おのおの静まりたるに、用光、「今はかぎり」と思えければ、涙を流して、めでたき音を吹き出でて、吹きすましたりけり。 弓矢の行方知らねば、防ぎ戦ふに力なくて、「今は疑ひなく殺されなんず」と思ひて、篳篥(ひちりき)を取り出でて、屋形の上に居て、「あの党や。今は沙汰に及ばず。とくなにものをも取り給へ。ただし、年ごろ思ひしめたる篳篥の、『小調子』といふ曲、吹きて聞かせ申さん。『さることこそ、ありしか』と、のちの物語にもし給へ」と言ひければ、むねとの、大なる声にて、「主(ぬし)たち、しばし待ち給へ。かく言ふことなり。もの聞け」と言ひければ、船を押さへて、おのおの静まりたるに、用光、「今はかぎり」と思えければ、涙を流して、めでたき音を吹き出でて、吹きすましたりけり。
  
-をりからにや、その調べ、波の上に響きて、かの潯陽江のほとりに、琵琶を聞きし昔語りにことならず。海賊、静まりて、いふことなし。 +をりからにや、その調べ、波の上に響きて、かの潯陽江のほとりに、琵琶を聞きし昔語りにことならず。海賊、静まりて、いふことなし。よくよく聞きて、曲終りて、先の声にて、「君が船に心をかけて、寄せたりつれども、曲の声に涙落ちて、かたさりぬ」とて、漕ぎ去りぬ。
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-よくよく聞きて、曲終りて、先の声にて、「君が船に心をかけて、寄せたりつれども、曲の声に涙落ちて、かたさりぬ」とて、漕ぎ去りぬ。+
  
 猛き武士(もののふ)の心をなぐさむること、和歌にはかぎらず。これら、みな管絃の徳なり。また、このことは鬼神の所感にあらざれども、命を助くること厳重によりて、ついでに記し申す。 猛き武士(もののふ)の心をなぐさむること、和歌にはかぎらず。これら、みな管絃の徳なり。また、このことは鬼神の所感にあらざれども、命を助くること厳重によりて、ついでに記し申す。
text/jikkinsho/s_jikkinsho10-27.txt · 最終更新: 2020/06/20 13:03 by Satoshi Nakagawa