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text:jikkinsho:s_jikkinsho06-32
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text:jikkinsho:s_jikkinsho06-32 [2016/01/25 21:38] (現在) – 作成 Satoshi Nakagawa
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 +十訓抄 第六 忠直を存ずべき事
 +====== 6の32 ある文にいはく趙柔といふ人路にあふて人の残せるところの金珠・・・ ======
 +
 +===== 校訂本文 =====
 +
 +ある文にいはく、
 +
 +趙柔といふ人、路にあふて、人の残せるところの金珠、一つらぬきを得たり。その値(あたひ)、多くのきぬにあたれりといへども、主を呼びて、返し取らせたりければ、人、これを聞きて、大に敬ひけり。
 +
 +またいはく、
 +
 +漢の楊震、東莱の太守として、昌邑といふところを過ぎけるに、その所の司(つかさ)、古意あるによりて、金を忍びやかに震に与ふ。震がいはく、「天も知り、地も知れり。我も知り、人も知る((底本「我も知」の下、「り人も知る」なし。諸本により補う。))」と言ひて、つひに受けず。「四知を恥づ」とはこれなり。おろかなるたぐひは、人の見るばかりを憚りて、天のかがみ給ふことを恥ぢぬなり。はかなく、うたてき心なり。
 +
 +「菊散一叢金((底本、「菊散聚金」。諸本により訂正。))」といふ題にて、紀納言((紀長谷雄))、作れる、
 +
 +  廉士路辺疑不拾
 +
 +  道家煙裏誤応焼
 +
 +釈尊、昔、阿難をともなひて、おはしましけるに、人、金を落せりけり。阿難、これを見て、「毒蛇」とのたまふ。仏、また、「大毒蛇」と仰せられて、過ぎさせ給ひにけり。
 +
 +そのあとに行く人、この金を取れりけるゆゑに、公より責めを蒙りて、おほきに煩ひけり。
 +
 +「楊震が四知を恥づる」、この意にや。
 +
 +===== 翻刻 =====
 +
 +  之公任是非ヲ於春叢トカカレタルハ此事歟、或文云、
 +  趙柔ト云人路ニアフテ人ノノコセルトコロノ金珠一ツラ
 +  ヌキヲエタリ、其値ヒ多ノキヌニアタレリト云ヘトモ、
 +  主ヲヨヒテ返シ取セタリケレハ、人是ヲキキテ大ニウ
 +  ヤマヒケリ、又云、漢ノ楊震東莱ノ大守トシテ昌邑
 +  ト云所ヲスキケルニ、其所ノツカサ古意アルニヨリテ、金
 +  ヲシノヒヤカニ震ニアタフ、震カ云、天モ知地モ知レリ
 +  我モ知ルト云テ、ツヰニウケス、四知ヲ恥トハ是也、ヲロカ/k92
 +
 +  ナル類ハ、人ノミルハカリヲ憚テ、天ノカカミ給事ヲ恥
 +  ヌ也、ハカナクウタテキ心也、菊散聚金ト云題ニテ、紀
 +  納言作レル
 +    廉士路辺疑不拾 道家煙裏誤応焼
 +  釈尊昔阿難ヲトモナヒテオハシマシケルニ、人金ヲ
 +  オトセリケリ、阿難是ヲミテ毒蛇トノ給フ、仏又
 +  大毒蛇ト仰ラレテ過サセ給ニケリ、其跡ニ行人此
 +  金ヲトレリケル故ニ、公ヨリ責ヲ蒙テ大ニ煩ケリ、
 +  楊震カ四知ヲ恥ル此意ニヤ、/k93
  
text/jikkinsho/s_jikkinsho06-32.txt · 最終更新: 2016/01/25 21:38 by Satoshi Nakagawa