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text:jikkinsho:s_jikkinsho04-07

十訓抄 第四 人の上を誡むべき事

4の7 雅縁阿闍梨と聞こえし人何の意趣かありけん慈恵僧正を・・・

校訂本文

雅縁阿闍梨1)と聞こえし人、何の意趣かありけん、慈恵僧正を濫行肉食の人たるよし、無実を申しつけたりけり。

慈恵、このことを聞きて、憤りて、祈請を書きて、三塔に披露せらる。その詞にいはく、

若し破戒無慚にして、天台座主に住せしむと云はば、恐らくは狐疑を先賢に残し、狼藉を後輩に致さむものなり。これに依りて、今、上宝に向ひ奉りて、このことを披陳す。

と書かれたりける。

その後、雅縁、三塔を走りめぐりて、「浄行持律の人に虚言(そらごと)を申しつけたる報い」とて、狂ひ歩きけるとぞ。

これもまた、ものを難じて、悪しきたぐひなりけり。

翻刻

雅縁阿闍梨ト聞エシ人何意趣カ有ケン、慈恵僧正
ヲ濫行肉食ノ人タルヨシ無実ヲ申付タリケリ、慈/k157
恵此ノ事ヲ聞テ憤リテ、祈請ヲ書テ三塔ニ披露セ
ラル。其詞云、
  若破戒無慚ニシテ天台座主ニ住セシムト云ハハ、恐狐
  疑ヲ先賢ニ残シ、狼藉ヲ後輩ニ致サム者也、依之
  今上宝ニ向奉テ、此事ヲ披陳ス、
トカカレタリケル、其後、雅縁、三塔ヲ走メクリテ、浄行
持律ノ人ニ空事ヲ申付タルムクヒトテ、クルヒ歩キ
ケルトソ、是モ又物ヲ難シテアシキタクヒナリケリ、/k158
text/jikkinsho/s_jikkinsho04-07.txt · 最終更新: 2020/11/04 22:40 by Satoshi Nakagawa