text:ima:s_ima016
今物語
第16話 ある者所の前を春のころ修行者の不思議なるが通りけるが・・・
校訂本文
ある者、所の前を、春のころ、修行者の不思議なるが通りけるが、檜笠(ひがさ)に梅の花を一枝差したりけるを、児ども、法師など、あまたありけるが、よにをかしげに思ひて、ある児の、「梅の花笠着たる御房」と言ひて笑ひたりければ、この修行者、立ち返りて、袖をかき合はせて、ゑみゑみと笑ひて
「『みの憂さの隠れざりける物ゆゑに梅の花笠着たる御房』
と仰せられ候やらん」と言ひたりければ、この者ども、「こはいかに」と、思はずに思ひて、言ひ遣りたる方もなくてぞありける。
さうなく人を笑ふこと、あるべくもなきことにや。
翻刻
ある物所のまへを春の比修行者のふしきなるか とをりけるかひかさに梅のはなを一枝さしたりけるを 児とも法師なとあまた有けるかよにおかしけにおもひ てあるちこのむめの花かさきたる御はうといひてわら ひたりけれはこの修行者立かへりて袖をかきあはせて ゑみゑみとわらひて 身のうさのかくれさりける物ゆへにむめの花かさきたる御坊 とおほせられ候やらんといひたりけれは此ものともこは いかにとおもはすにおもひていひやりたるかたもなくてそ ありけるさうなく人をわらふ事あるへくもなき事にや/s12r
text/ima/s_ima016.txt · 最終更新: 2014/12/19 22:08 by Satoshi Nakagawa