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text:ima:s_ima003

今物語

第3話 ある殿上人さるべき所へ参りたりけるに・・・

校訂本文

ある殿上人、さるべき所へ参りたりけるに、折しも雪降りて、月おぼろなりけるに、中門の板に候ひて、寝殿なる女房にあひしらひけるが、「このおぼろ月は、いかがしく1)べき」と言ひたりければ、女房、返事はなくて、とりあへず内より畳を押し出だしたりける心早さ、いみじかりけり。

  照りもせず曇りもはてぬ春の夜のおぼろ月夜にしく物ぞなき

翻刻

ある殿上人さるへき所へまいりたりけるにおりしも雪
ふりて月おほろなりけるに中門のいたに候て寝殿
なる女房にあひしらひけるかこのおほろ月はいかかしく
へきといひたりけれは女房返事はなくてとりあへすう
ちよりたたみををしいたしたりける心はやさいみしかりけり
  照もせすくもりもはてぬ春のよのおほろ月夜にしく物そなき/s6l
1)
「敷く」と「如く」を懸けている
text/ima/s_ima003.txt · 最終更新: 2014/12/13 01:23 by Satoshi Nakagawa