text:hosshinju:h_hosshinju8-15
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— | text:hosshinju:h_hosshinju8-15 [2017/08/16 13:04] (現在) – 作成 Satoshi Nakagawa | ||
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+ | 発心集 | ||
+ | ====== 跋 ====== | ||
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+ | ===== 校訂本文 ===== | ||
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+ | そもそも、ことの次(ついで)ごとに書き続け侍るほどに、おのづから神明の御こと多くなりにけり。「昔の余執かな」とあざけりも侍べけれど、あながちに、「もて離れん」と思ふべきにもあらず。 | ||
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+ | そのゆゑは、たいてい、末の世のわれらがためには、たとひ後世を思はむにつけても、必ず神に祈り申すべきと思え侍るなり。もろもろのこと、祈りを得、所により身に随へることの、勤むるもやすく、またその験(しるし)も侍るなり。釈尊入滅の後、二千余年、天竺を去れること数万里、わづかに聖教伝はり給ふといへども、正像すでに過ぎて、行ふ人もかたく、その験(しるし)もまたまれなり。 | ||
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+ | ここに、諸仏菩薩、悪世の衆生の辺卑のさかひに生まれ、無仏の世にまどひて、浮ぶ方なからんことをかがみ給ひて、わが機にかなはむために、いやしき鬼神のつらとなり給へば、かつは悪魔をしたがへ、仏法を守り、かつは賞罸をあらはして、信心を発(おこ)さしめ給ふ。これすなはち、利生方便のねんごろなるよりおこるなり。 | ||
+ | |||
+ | 中にも、わが国のありさま、神明の助けならずは、いかにか人民もやすく、国土も穏かならむ。小国辺卑のさかひなれば、国の力弱く、人の心も愚かなるべし。隠しては天魔のために悩まされ、あらはれては大国の王に領ぜられつつ、やすきそらもなくてこそは侍らましか。たとひ、仏法渡り給へりとも、悪魔の妨げこはくして、濁世の今に広まり給はんこと、極めてかたし。 | ||
+ | |||
+ | かのの天竺は、南州の最中(もなか)、まさしく仏の出で給へりし国なれど、像法の末より、諸天の擁護(おうご)やうやう衰へ、仏法滅し給へるがごとし。霊鷲山のいにしへのこと、虎・狼のすみかとなり、祇園精舎の古き砌(みぎり)は、わづかに礎(いしずゑ)ばかりこそは残りて侍るなれ。 | ||
+ | |||
+ | しかるを、わが国は、昔、いざなみ・いざなきの尊より、百王の今に至るまで、久しく神の御国として、その加護なほあらたなり。あまさへ、新羅・高麗・支那・百済などいひて、いきほひことのほかなる国々さへ随へつつ、五濁乱慢のいやしきも、なほ大乗盛りに広まり給 | ||
+ | へり。もし、国に逆臣あれば、月日をめぐらさずこれを滅ぼし、天魔、仏法を傾けんとすれば、鬼王として対治し給ふ。 | ||
+ | |||
+ | これより、仏法・王法衰ふることなく、民やすく、国穏やかなり。あきらけき衆生の願楽、世々の業因をかがみ給ひて、これに随へる恵み、たとへば、水のうつは物に随ふがごとし。君の御為にはたかき大神とあらはれ、民のためにはいやしき道祖神となり、智恵の前には本地を顕はし、邪見の家には仏法をいましめ給ふ。後世を知らぬ輩(ともがら)は、福を祈らむために歩みを運ぶ。因果に暗き人は、罸を恐れて仰ぎ奉る。 | ||
+ | |||
+ | かかれば、里の中、道のほとりなどに、大きなる木、一二本も見ゆる所、みなあやしけれど、神のいます所なり。寺のほとりの草木、「いづら人の植ゑ置きける」と((底本「と」なし。文意によって補入。))、とがめののしるだに、隙(ひま)をはかりて、切りほろぼす。やや堂舎を毀(こぼ)ち取り、仏の場(には)にもろもろの不浄を行(ぎやう)す。まことに目もあてられぬこと多くこそ侍れ。 | ||
+ | |||
+ | 「げに、神とあらはれ給はざらましかば、無悪不造の輩(ともがら)、何につけてか、つゆばかりの縁を結び奉らまし」と思とけば、「かく、榊・幣(みてぐら)よりはじめ、かたくななる宜禰(きね)が皷の音までも、みな開楽悟入の御かまへなり」と、あはれにかたじけなくなむ侍り。 | ||
+ | |||
+ | しかれば、すなはち現世のもろもろの望みこそ、仮の方便とこそ知らしめ給はめ。「出離生死を祈り申さんに至りては、いかでか、化度の本懐をあらはし給はざらん」と思え侍るなり。 | ||
+ | |||
+ | ===== 翻刻 ===== | ||
+ | |||
+ | 哀ナル事ナリ。抑コトノ次ゴトニ書ツツケ侍ホドニ | ||
+ | ヲノツカラ神明ノ御事多クナリニケリ。昔余執カ | ||
+ | ナトアザケリモ侍ベケレド。強ニモテ離ント思フ | ||
+ | ベキニモアラズ其故ハ大底スヱノ世ノ我等ガ為 | ||
+ | ニハタトヒ後世ヲ思ハムニ付テモ必ス神ニ祈リ申 | ||
+ | ベキト覚ヘ侍ナリ。モロモロノ事祈ヲ得所ニヨリ身 | ||
+ | ニ随ルコトノ勤ルモヤスク又ソノシルシモ侍ナリ釈 | ||
+ | 尊入滅ノ後二千余年天竺ヲサレル事数万里ワ | ||
+ | ヅカニ聖教ツタハリ給トイヘドモ正像スデニ過/n28l | ||
+ | |||
+ | テ行フ人モカタク。其シルシモ又マレナリ。爰ニ諸仏菩 | ||
+ | 薩悪世ノ衆生ノ辺卑ノサカヒニ生レ。無仏ノ世ニ | ||
+ | マドヒテウカフ方ナカラン事ヲカカミ給テ。我機ニ | ||
+ | カナハム為ニ。イヤシキ鬼神ノツラトナリ給ヘハ。且 | ||
+ | ハ悪魔ヲシタガヘ。仏法ヲ守リ。且ハ賞罸ヲアラ | ||
+ | ハシテ信心ヲ発サシメ給フ。是則利生方便ノネム | ||
+ | ゴロナルヨリオコルナリ。中ニモ我国ノアリサマ神 | ||
+ | 明ノタスケナラズハイカニカ人民モヤスク国土モオ | ||
+ | ダヤカナラム。小国辺卑ノサカヒナレハ。国ノ力ヨハ | ||
+ | ク人ノ心モ愚ナルベシ。カクシテハ天魔ノ為ニナヤマ/n29r | ||
+ | |||
+ | サレ。アラハレテハ大国ノ王ニ領セラレツツ安ソラ | ||
+ | モナクテコソハ侍ラマシカ。タトヒ仏法ワタリ給 | ||
+ | ヘリトモ悪魔ノサマダケコハクシテ濁世ノ今ニ | ||
+ | ヒロマリ給ハン事キハメテカタシ。彼ノ天竺ハ南州ノ | ||
+ | 最中マサシク仏ノ出給ヘリシ国ナレド。像法ノ末 | ||
+ | ヨリ諸天ノ擁護ヤウヤウ衰ヘ仏法滅シ給ヘルカ如 | ||
+ | シ。霊鷲山ノイニシヘノ事虎狼ノスミカトナリ。 | ||
+ | 祇園精舎ノフルキ砌リハワヅカニ石ズエ計コソハ残 | ||
+ | リテ侍ルナレ。然ヲ吾国ハ昔イザナミイザナキノ | ||
+ | 尊ヨリ百王ノ今ニイタルマデ久ク神ノ御国トシ/n29l | ||
+ | |||
+ | テ其加護ナヲアラタナリ。剰ヘ新羅高麗支那百 | ||
+ | 済ナドイヒテ。イキホヒ事ノ外ナル国々サヘ随ツツ | ||
+ | 五濁乱慢ノイヤシキモ猶大乗サカリニヒロマリ給 | ||
+ | ヘリ。若国ニ逆臣アレバ月日ヲメグラサス是ヲホロボ | ||
+ | シ。天魔仏法ヲ傾ケントスレバ鬼王トシテ対治シ | ||
+ | 給フ。是ヨリ仏法王法衰ル事ナク。民ヤスク国穏 | ||
+ | カ也。アキラケキ衆生ノ願楽世々ノ業因ヲカカミ | ||
+ | 給テ。コレニ随ヘルメクミ。タトヘバ水ノウツハ物ニ随カ | ||
+ | ゴトシ。君ノ御為ニハタカキ大神トアラハレ。民ノ | ||
+ | 為ニハ。イヤシキ道祖神トナリ。智恵ノ前ニハ本地/n30r | ||
+ | |||
+ | ヲアラハシ。邪見ノ家ニハ仏法ヲイマシメ給フ後世 | ||
+ | ヲシラヌ輩ハ福ヲイノラム為ニアユミヲ運フ因果 | ||
+ | ニクラキ人ハ罸ヲオソレテ仰キ奉ル。カカレバ里ノ | ||
+ | 中道ノホトリナトニ大ナル木一二本モ見所ミナ | ||
+ | アヤシケレト。神ノイマス所ナリ。寺ノホトリノ草 | ||
+ | 木イヅラ人ノウヘ置ケルトカメノノシルダニ。隙ヲ | ||
+ | ハカリテキリホロボス。ヤヤ堂舎ヲコボチトリ。仏 | ||
+ | 場ニ諸ノ不浄ヲ行ス。マコトニ目モアテラレヌ事 | ||
+ | オホクコソ侍レ。ゲニ神トアラハレ給ハザラマシカバ | ||
+ | 無悪不造ノトモカラナニニツケテカ露バカリノ/n30l | ||
+ | |||
+ | 縁ヲムスビ奉ラマシト思トゲハ。カク榊ミテグラ | ||
+ | ヨリ初。カタクナナル宜禰カ皷ノ音マテモ皆開楽 | ||
+ | 悟入ノ御カマヘナリト哀ニ忝クナム侍リ。然バ | ||
+ | スナハチ現世ノモロモロノ望コソカリノ方便トコ | ||
+ | ソシラシメ給ハメ。出離生死ヲ祈リ申サンニ至テ | ||
+ | ハ。イカデカ化度ノ本懐ヲアラハシ給ハザラント | ||
+ | 覚ヘ侍ルナリ | ||
+ | | ||
+ | 発心集第八終 | ||
+ | | ||
+ | 慶安四(辛卯)歳仲春 | ||
+ | 中野小左衛門刊行/n31r | ||
text/hosshinju/h_hosshinju8-15.txt · 最終更新: 2017/08/16 13:04 by Satoshi Nakagawa