text:hosshinju:h_hosshinju8-13
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— | text:hosshinju:h_hosshinju8-13 [2017/08/15 13:49] (現在) – 作成 Satoshi Nakagawa | ||
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+ | 発心集 | ||
+ | ====== 第八第13話(101) 或る上人、生ける神供の鯉を放ち、夢中に怨みらるる事 ====== | ||
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+ | ===== 校訂本文 ===== | ||
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+ | ある聖、船に乗りて、近江の湖((琵琶湖))を過ぎけるほどに、網船に大きなる鯉を捕りて、持(も)て行きけるが、いまだ生きてふためきけるを、あはれみて、着たりける小袖を脱ぎて、買ひとりて放ちけり。 | ||
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+ | 「いみじき功徳作りつ」と思ふほどに、その夜の夢に、白狩衣着たる翁一人、われを尋ねて来たり。いみじう恨たる気色(けしき)なるを、あやしくて、問ひければ、「われは、昼、網に引かれて、命終らんとしつる鯉なり。聖の御しわざの口惜しく侍れば、そのこと申さむとてなり」と言ふ。聖言ふやう、「このことこそ心得ね。悦びこそ言はるべきに、あまさへ、恨みらるらむ、いと当らぬことなり」と言ふ。翁いはく、「しか侍り。されど、われ、鱗(うろくづ)の身を受けて、得脱の期を知らず。この湖の底にて、多くの年を積めり。しかるを、またまた((「たまたま」の誤りか。))賀茂の供祭になりて、『それを縁として、苦患をまぬかれなん』とつかまつりつるを、さかしきことをし給ひて、また畜生の業を延べ給へるなり」と言ふとなむ、見たりける。 | ||
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+ | ===== 翻刻 ===== | ||
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+ | 或上人放生神供鯉夢中被怨事 | ||
+ | 或聖船ニノリテ近江ノ湖ヲスギケル程ニ網船ニ | ||
+ | 大キナル鯉ヲトリテモテ行ケルガ。イマダ生テフ | ||
+ | タメキケルヲ哀ミテ着タリケル小袖ヲヌギテ買 | ||
+ | トリテ放ケリ。イミジキ功徳ツクリツト思フ程ニ | ||
+ | 其夜ノ夢ニ白狩衣キタル翁ヒトリ我ヲ尋テ来 | ||
+ | イミジフ恨タル気色ナルヲアヤシクテ問ケレバ/n26l | ||
+ | |||
+ | 我ハ昼アミニヒカレテ命オハラントシツル鯉ナリ。 | ||
+ | 聖ノ御シワザノ口惜ク侍レバ其事申サムトテナ | ||
+ | リトイフ。聖云様コノ事コソ心得ネ悦ヒコソイハル | ||
+ | ベキニ。剰ヘ恨ラルラム最アタラヌ事ナリト云。翁 | ||
+ | イハク。シカ侍リサレド我鱗ノ身ヲウケテ得脱 | ||
+ | ノ期ヲシラズ。此湖ノ底ニテオホクノ年ヲツメリ。 | ||
+ | シカルヲマタマタ賀茂ノ供祭ニナリテ。ソレヲ縁ト | ||
+ | シテ苦患ヲマヌカレナント仕リツルヲ。サカシキ | ||
+ | 事ヲシ給テ又畜生ノ業ヲノヘ給ヘルナリト云ト | ||
+ | ナム見タリケル/n27r | ||
text/hosshinju/h_hosshinju8-13.txt · 最終更新: 2017/08/15 13:49 by Satoshi Nakagawa