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発心集

第八第2話(90) 或る上人、名聞の為に堂を建て天狗になる事

校訂本文

ある山寺に、徳高く聞こゆる聖ありけり。

年ごろ、堂を建て仏を作り、さまざま功徳をいとなみ、貴く行ひけるが、終りめでたくてありければ、弟子もあたりの人も、疑なき往生人と信じて過ぎけるほどに、ある人に、かの聖の霊つきて、心得ぬさまのことども言ふ。聞けば、はや天狗になりたりけり。

弟子ども、思ひのほかなる心地して、いみじく口惜しく思へども、力なくおぼつかなきことなど問ひければ、不思議のことどもいふ中に、「われ、在世の間、深く名聞に住して、無き徳を称じて、人をたぶろかして作りし仏なれば、かかる身となりて後は、この寺を人の拝み貴ぶ日に、わが苦患まさるなり」とこそ言ひけれ。

いみじき功徳を作るとも、心調はずは、かひなかるべし。「今のことなれば、名はたしかなれど、ことさらあらはさず」とぞ、ある人語り侍りし。

翻刻

  有上人為名聞建堂作天狗事/n6r
或山寺ニ徳タカク聞ユル聖アリケリ。年比堂ヲタテ
仏ヲツクリサマサマ功徳ヲイトナミタウトク行ケルガオ
ハリ目出テアリケレバ。弟子モアタリノ人モ疑ナキ往
生人ト信ジテ過ケル程ニ或人ニ彼聖ノ霊ツキテ心
得ヌサマノ事ドモイフ。聞ケハ早天狗ニナリタリケリ。弟
子共思ノ外ナル心地シテ。イミジク口惜思ヘドモ無力
オボツカナキ事ナド問ケレバ。不思儀ノ事ドモ云中
ニ。我在世ノ間フカク名聞ニ住シテナキ徳ヲ称ジテ
人ヲタフロカシテ作シ仏ナレバ。カカル身トナリテ後
ハ此寺ヲ人ノ拝タウトフ日ニ我苦患マサル也トコ/n6l
ソ云ケレ。イミジキ功徳ヲツクルトモ。心トトノハズハ
甲斐ナカルベシ今ノ事ナレバ名ハタシカナレド
殊更アラハサズトゾ或人カタリ侍シ/n7r
text/hosshinju/h_hosshinju8-02.txt · 最終更新: 2017/08/06 12:56 by Satoshi Nakagawa
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