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text:hosshinju:h_hosshinju7-11
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text:hosshinju:h_hosshinju7-11 [2017/07/31 12:18] (現在) – 作成 Satoshi Nakagawa
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 +発心集
 +====== 第七第11話(86) 源親元、普く念仏を勧め往生の事 ======
 +
 +===== 校訂本文 =====
 +
 +中ごろ、安房守源親元といふ人ありけり。常に先生の罪を悔いて、朝夕、極楽を願ふこと浅からず。
 +
 +検非違使にてありける間、施(せ)を行なひ、罪をなだめ、人を助くること多し。つひに、東山辺(へん)に堂を造りて、阿弥陀の三尊を安置す。その上に、一人の比丘の形を造りすゑて、その名を安法(あぼふ)とぞ付けたりける。これ、われ出家したらん時の名なるべし。
 +
 +安房守になりて下りける時、任のはじめなれど、さらに神事(じんじ)を先とせず。ただ、仏事をのみ勤めけり。国を治めける間、かしこに五間の堂を作り、丈六の阿弥陀仏を安置せり。国中の民にあまねく念仏を勧めて、遍数にしたがひて、官物(くわんぶつ)を許す。石別(こくべつ)に十万遍をあてたりける。もし、犯の者あれば、念仏する者をば選びて必ず免す。
 +
 +国の内豊かにして、民・百姓なびきしたがへり。朝夕に念仏申す声の、家ごとに絶ゆることなし。後には隣の国まで聞き伝へて、しばらくはうらやみ、しばらくは貴ぶ。
 +
 +任果てて上りける時、民のうれふるさま、父母に別れたるやうにぞありける。つひに京へ入らずして、三井寺にて出家す。
 +
 +終り近なりては、微妙の楽、耳に聞こえ、さまざま瑞相あらはれて、往生を遂げたるよし、伝((『後拾遺往生伝』))に記せり。
 +
 +===== 翻刻 =====
 +
 +    源親元普勧念仏往生事
 +  中来安房守源親元ト云人アリケリ。常ニ先生ノ罪
 +  ヲ悔テ朝夕極楽ヲ願事不浅検非違使ニテアリケ/n21r
 +
 +  ル間施ヲオコナヒ罪ヲナダメ人ヲタスクル事オホシ。
 +  終ニ東山辺ニ堂ヲ造テ阿弥陀ノ三尊ヲ安置ス。
 +  其上ニヒトリノ比丘ノ形ヲ造スエテ其名ヲ安法ト
 +  ゾツケタリケル。是我出家シタラン時ノ名ナルベシ。安
 +  房守ニ成テ下リケル時任ノハジメナレド更ニ神事ヲ
 +  サキトセズ。只仏事ヲノミ勤メケリ。国ヲ治ケル間。カ
 +  シコニ五間ノ堂ヲ作リ。丈六ノ阿弥陀仏ヲ安置セリ。
 +  国中ノ民ニアマネク念仏ヲ勧テ遍数ニシタガヒテ
 +  官物ヲユルス。石別ニ十万遍ヲアテタリケル若犯ノ
 +  者アレバ。念仏スル物ヲハエラヒテ必ユルス。国ノ内豊/n21l
 +
 +  ニシテ民百性ナビキ随ヘリ。朝夕ニ念仏申声ノ家
 +  ゴトニ絶ル事ナシ。後ニハ隣ノ国マデ聞伝テ且ハウラ
 +  ヤミ且ハタウトフ。任ハテテ上リケル時。民ノウレフルサ
 +  マ父母ニ別レタル様ニゾアリケル。終ニ京ヘ入ズシテ。
 +  三井寺ニテ出家ス。終リ近ナリテハ微妙ノ楽耳
 +  ニ聞ヘ。サマサマ瑞相アラハレテ。往生ヲ遂タルヨシ伝
 +  ニシルセリ/n22r
  
text/hosshinju/h_hosshinju7-11.txt · 最終更新: 2017/07/31 12:18 by Satoshi Nakagawa