text:hosshinju:h_hosshinju6-10
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— | text:hosshinju:h_hosshinju6-10 [2017/06/29 22:00] (現在) – 作成 Satoshi Nakagawa | ||
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+ | 発心集 | ||
+ | ====== 第六第10話(72) 室の泊の遊君、鄭曲を吟じて上人に結縁する事 ====== | ||
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+ | ===== 校訂本文 ===== | ||
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+ | 中ごろ、少将聖といふ人ありけり。ことの便りありて、播磨国、室(むろ)といふ所に泊りたりける夜、月くまなくていとおもしろかりけるに、遊女、われもわれもと歌ひ行きちがふ。 | ||
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+ | 「あはれなる者の様かな」と見るほどに、ある遊女の舟、この聖の乗りたる舟をさして、漕ぎ寄せければ、梶取やうの者、「否や、これは僧の御舟なり。思ひたがへ給へるか」と、ことの外に言ふ。 | ||
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+ | 「さ見奉る。何とてかは、さる僻目は見るものかは」と言ひて、皷打ちて | ||
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+ | 暗きより暗き道にぞ入りぬべきはるかに照らせ山の端の月 | ||
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+ | と、この歌を二三遍ばかり歌ひて、「かかる罪深き身になれるも、さるべき報ひに侍るべし。この世は夢にてやみなむとす。必ず救ひ給ひなん。心ばかり縁を結び奉るなり」と言ひて、漕ぎ離れにけり。 | ||
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+ | 「思はず、あはれに思えて、涙を落したり」と、後に人に語りける。 | ||
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+ | ===== 翻刻 ===== | ||
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+ | 室泊遊君吟鄭曲結縁上人事 | ||
+ | 中比少将聖ト云人アリケリ。事ノ便アリテ播磨国 | ||
+ | 室ト云所ニトマリタリケル夜。月クマナクテイト面 | ||
+ | 白カリケルニ。遊女ワレモワレモトウタヒ行チガフ。哀ナル | ||
+ | 者ノ様カナト見ル程ニ。アル遊女ノ舟コノ聖ノ乗タル | ||
+ | 船ヲサシテコギ寄ケレバ。梶取ヤウノモノ否ヤコレハ | ||
+ | 僧ノ御舟也。思タガヘ給ヘルカト事ノ外ニイフ。サ見奉 | ||
+ | ル何トテカハサル僻目ハ見ルモノカハト云テ皷打テ | ||
+ | クラキヨリ闇キ道ニゾ入ヌベキ遥ニテラセ山ノ端ノ月/n25l | ||
+ | |||
+ | ト此歌ヲ二三遍バカリウタヒテ。カカル罪フカキ身ニ | ||
+ | ナレルモサルベキ報ニ侍ベシ。此世ハ夢ニテヤミナムトス。 | ||
+ | 必ズスクヒ給ヒナン心計縁ヲムスヒ奉也ト云テ。コギハ | ||
+ | ナレニケリ。思ハズ哀レニ覚ヘテ涙ヲ落シタリト後ニ人 | ||
+ | ニ語リケル/n26r | ||
text/hosshinju/h_hosshinju6-10.txt · 最終更新: 2017/06/29 22:00 by Satoshi Nakagawa