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発心集

第六第10話(72) 室の泊の遊君、鄭曲を吟じて上人に結縁する事

校訂本文

中ごろ、少将聖といふ人ありけり。ことの便りありて、播磨国、室(むろ)といふ所に泊りたりける夜、月くまなくていとおもしろかりけるに、遊女、われもわれもと歌ひ行きちがふ。

「あはれなる者の様かな」と見るほどに、ある遊女の舟、この聖の乗りたる舟をさして、漕ぎ寄せければ、梶取やうの者、「否や、これは僧の御舟なり。思ひたがへ給へるか」と、ことの外に言ふ。

「さ見奉る。何とてかは、さる僻目は見るものかは」と言ひて、皷打ちて

  暗きより暗き道にぞ入りぬべきはるかに照らせ山の端の月

と、この歌を二三遍ばかり歌ひて、「かかる罪深き身になれるも、さるべき報ひに侍るべし。この世は夢にてやみなむとす。必ず救ひ給ひなん。心ばかり縁を結び奉るなり」と言ひて、漕ぎ離れにけり。

「思はず、あはれに思えて、涙を落したり」と、後に人に語りける。

翻刻

  室泊遊君吟鄭曲結縁上人事
中比少将聖ト云人アリケリ。事ノ便アリテ播磨国
室ト云所ニトマリタリケル夜。月クマナクテイト面
白カリケルニ。遊女ワレモワレモトウタヒ行チガフ。哀ナル
者ノ様カナト見ル程ニ。アル遊女ノ舟コノ聖ノ乗タル
船ヲサシテコギ寄ケレバ。梶取ヤウノモノ否ヤコレハ
僧ノ御舟也。思タガヘ給ヘルカト事ノ外ニイフ。サ見奉
ル何トテカハサル僻目ハ見ルモノカハト云テ皷打テ
  クラキヨリ闇キ道ニゾ入ヌベキ遥ニテラセ山ノ端ノ月/n25l
ト此歌ヲ二三遍バカリウタヒテ。カカル罪フカキ身ニ
ナレルモサルベキ報ニ侍ベシ。此世ハ夢ニテヤミナムトス。
必ズスクヒ給ヒナン心計縁ヲムスヒ奉也ト云テ。コギハ
ナレニケリ。思ハズ哀レニ覚ヘテ涙ヲ落シタリト後ニ人
ニ語リケル/n26r
text/hosshinju/h_hosshinju6-10.txt · 最終更新: 2017/06/29 22:00 by Satoshi Nakagawa
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