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text:hosshinju:h_hosshinju5-05 [2017/06/03 00:04] – 作成 Satoshi Nakagawatext:hosshinju:h_hosshinju5-05 [2017/06/03 00:06] (現在) – [校訂本文] Satoshi Nakagawa
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 ===== 校訂本文 ===== ===== 校訂本文 =====
  
-近く、山の西塔(さいたふ)の西谷(にしだに)に、南尾といふ所に、極楽房の阿闍梨といふ人ありけり。かの住みける坊の、南尾にとりて、北尾といふ方(かた)を見やりて、上り下る道、隠れなく見ゆる所にてなむありける。+近く、山((比叡山))の西塔(さいたふ)の西谷(にしだに)に、南尾といふ所に、極楽房の阿闍梨といふ人ありけり。かの住みける坊の、南尾にとりて、北尾といふ方(かた)を見やりて、上り下る道、隠れなく見ゆる所にてなむありける。
  
-この阿闍梨、念誦うちして、脇息に寄りかかりて、ちとまどろみたる夢に、北尾よりゆゆしげに痩せ枯(が)れたる牛に、物おほせて登る人あり。牛の舌をれて登りかねたるを、髪赤くちぢみあがりたる小童の、眼(まなこ)いとかしこげなるがつきて、後(しり)になり、前(さき)になり、走りめぐりて、これを押し上げ助けつつ登るあり。あやしく、ただ人とも思えず、「童、あな何者ならん」と思ふほどに、そばに人ありて言ふやう、「あれは、『生々に加護の誓ひをたがへじ』とてなり」と言ふと見て驚きぬ。+この阿闍梨、念誦うちして、脇息に寄りかかりて、ちとまどろみたる夢に、北尾よりゆゆしげに痩せ枯(が)れたる牛に、物おほせて登る人あり。牛の舌をれて登りかねたるを、髪赤くみあがりたる小童の、眼(まなこ)いとかしこげなるがつきて、後(しり)になり、前(さき)になり、走りめぐりて、これを押し上げ助けつつ登るあり。あやしく、ただ人とも思えず、「童、あな何者ならん」と思ふほどに、そばに人ありて言ふやう、「あれは、『生々に加護の誓ひをたがへじ』とてなり」と言ふと見て驚きぬ。
  
 うつつに見やれば、見えつるやうに少しもたがはず。かの牛、物を負ひて登るありつるに、赤頭(あかがしら)の童は見えず。 うつつに見やれば、見えつるやうに少しもたがはず。かの牛、物を負ひて登るありつるに、赤頭(あかがしら)の童は見えず。
text/hosshinju/h_hosshinju5-05.txt · 最終更新: 2017/06/03 00:06 by Satoshi Nakagawa