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text:hosshinju:h_hosshinju4-09 [2017/05/23 22:17]
Satoshi Nakagawa 作成
text:hosshinju:h_hosshinju4-09 [2017/05/23 22:18] (現在)
Satoshi Nakagawa [校訂本文]
ライン 6: ライン 6:
 武蔵国、入間川のほとりに、大なる堤(つつみ)を築(つ)き、水を防ぎて、その内に田畠を作りつつ、在家多くむらがり居たる所ありけり。官首といふ男なん、そこに宗(むね)とある者にて、年ごろ住みける。 武蔵国、入間川のほとりに、大なる堤(つつみ)を築(つ)き、水を防ぎて、その内に田畠を作りつつ、在家多くむらがり居たる所ありけり。官首といふ男なん、そこに宗(むね)とある者にて、年ごろ住みける。
  
-ある時、五月雨、日ごろになりて、水、いかめしう出でたりける。されど、いまだ年ごろこの堤の切れたることなければ、「さりとも」と驚かず。かかるほどに、雨、いこぼすごとく降りて、おびたたしかりける夜中ばかり、にはかに雷(いかづち)のごとく、よに恐しく鳴りどよむ声あり。この官首と家に寝たる者ども、みな、驚き怪しみて、「こは何物の声ぞ」と恐れあへり。+ある時、五月雨、日ごろになりて、水、いかめしう出でたりける。されど、いまだ年ごろこの堤の切れたることなければ、「さりとも」と驚かず。かかるほどに、雨、いこぼすごとく降りて、おびたたしかりける夜中ばかり、にはかに雷(いかづち)のごとく、よに恐しく鳴りどよむ声あり。この官首と家に寝たる者ども、みな、驚き怪しみて、「こは何物の声ぞ」と恐れあへり。
  
 官首、郎等を呼びて、「堤の切れぬると思ゆるぞ。出でて見よ」と言ふ。すなはち、引き開けて見るに、二三町ばかり白み渡りて、海の面(おもて)と異ならず。「こは、いかがせん」といふほどこそあれ、水ただ増さりに増さりて、天井まで付きぬ。官首が妻子(さいし)をはじめて、あるかぎり、天井に登りて、桁(けた)・梁(うつばり)に取り付きて叫ぶ。 官首、郎等を呼びて、「堤の切れぬると思ゆるぞ。出でて見よ」と言ふ。すなはち、引き開けて見るに、二三町ばかり白み渡りて、海の面(おもて)と異ならず。「こは、いかがせん」といふほどこそあれ、水ただ増さりに増さりて、天井まで付きぬ。官首が妻子(さいし)をはじめて、あるかぎり、天井に登りて、桁(けた)・梁(うつばり)に取り付きて叫ぶ。


text/hosshinju/h_hosshinju4-09.txt · 最終更新: 2017/05/23 22:18 by Satoshi Nakagawa