text:hosshinju:h_hosshinju4-05
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text:hosshinju:h_hosshinju4-05 [2017/05/20 20:56] – [翻刻] Satoshi Nakagawa | text:hosshinju:h_hosshinju4-05 [2018/11/18 15:13] (現在) – [校訂本文] Satoshi Nakagawa | ||
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さてしも、あるべきならねば、とばかりありて、妻にこのことを告ぐ。すなはち、驚きまどひ、をびたたしく手をたたきて、眼をいからかし、もだへ迷ひて絶え入りぬ。 | さてしも、あるべきならねば、とばかりありて、妻にこのことを告ぐ。すなはち、驚きまどひ、をびたたしく手をたたきて、眼をいからかし、もだへ迷ひて絶え入りぬ。 | ||
- | 人おぢて、近付きも寄らざりける間に、一時ばかりありて、世に恐ろしう、声のある限りをめき叫びて言ふやう、「われ、狗留孫仏の時より、こやつが菩提を妨げんために、世々生々(せぜしやうじやう)に妻となり、男となり、さまざま親しみたばかりて、今まで本意(ほい)のごとく随ひ付きもたりつるを、今日すでに逃がしつる。ねたきわざかな」と言ひて、歯をくひしばり、垣壁(かきかべ)を叩く。人、いとど恐れをののきて、みな這ひ隠れたる間に、いづちともなく失せにけり。その後、つひに行方(ゆくかた)知らずとなん。往生伝((『拾遺往生伝』))には、「康平の比」と註せり。 | + | 人おぢて、近付きも寄らざりける間に、一時ばかりありて、世に恐ろしう、声のある限りをめき叫びて言ふやう、「われ、拘留孫仏((「拘留孫仏」は底本「狗留孫仏」。文意により訂正。))の時より、こやつが菩提を妨げんために、世々生々(せぜしやうじやう)に妻となり、男となり、さまざま親しみたばかりて、今まで本意(ほい)のごとく随ひ付きもたりつるを、今日すでに逃がしつる。ねたきわざかな」と言ひて、歯をくひしばり、垣壁(かきかべ)を叩く。人、いとど恐れをののきて、みな這ひ隠れたる間に、いづちともなく失せにけり。その後、つひに行方(ゆくかた)知らずとなん。往生伝((『拾遺往生伝』))には、「康平の比」と註せり。 |
これ、一人が上にあらず。悪魔の、さりがたき人となりて、二世を妨ぐることは、誰も必ずあるべきことなり。かかれば((底本「カレハ」。文意によって訂正。))、このことを心にかけつつ、親しき疎(うと)き分かず、善をすすむる人あらば、「仏菩薩こそ、さまざま形を変じて、人を化度し給へ。まし化身か、もしまた、その便りか」とむつましく思ひ、罪を作らせ、功徳を妨げて、執(しふ)を留めん人をば、世々生々の悪縁と恐れて、遠ざからんことを願ふべし。 | これ、一人が上にあらず。悪魔の、さりがたき人となりて、二世を妨ぐることは、誰も必ずあるべきことなり。かかれば((底本「カレハ」。文意によって訂正。))、このことを心にかけつつ、親しき疎(うと)き分かず、善をすすむる人あらば、「仏菩薩こそ、さまざま形を変じて、人を化度し給へ。まし化身か、もしまた、その便りか」とむつましく思ひ、罪を作らせ、功徳を妨げて、執(しふ)を留めん人をば、世々生々の悪縁と恐れて、遠ざからんことを願ふべし。 |
text/hosshinju/h_hosshinju4-05.1495281366.txt.gz · 最終更新: 2017/05/20 20:56 by Satoshi Nakagawa