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--- text:hosshinju:h_hosshinju3-08 [2017/05/06 19:02] – 作成 Satoshi Nakagawa
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     蓮花城入水事
-  近比蓮花城と云て人に知れたる聖ありき卜蓮法師／n16l
+  近比蓮花城ト云テ人ニ知レタル聖アリキ卜蓮法師／n16l
-  あひ知て事にふれ情をかけつつ過ける程に年比ありて此
+  アヒ知テ事ニフレ情ヲカケツツ過ケル程ニ年比アリテ此
-  聖の云ける様は。今は年にそへつつよはくなり罷れば。死期の近
+  聖ノ云ケル様ハ。今ハ年ニソヘツツヨハクナリ罷レバ。死期ノ近
-  付事疑べからず。をはり正念にて罷かくれん事極れる望み
+  付事疑ベカラズ。ヲハリ正念ニテ罷カクレン事極レル望ミ
-  にて侍るを心のすむ時入水をして。をはり取んと侍ると云卜
+  ニテ侍ルヲ心ノスム時入水ヲシテ。ヲハリ取ント侍ルト云卜
-  蓮聞驚て可有事にも非ず今一日なりとも念仏の功を
+  蓮聞驚テ可有事ニモ非ズ今一日ナリトモ念仏ノ功ヲ
-  積んとこそ願はるべけれ。さ様の行は愚痴なる人のするわざ也
+  積ントコソ願ハルベケレ。サ様ノ行ハ愚痴ナル人ノスルワザ也
-  と云て。いさめけれど更にゆるぎなく思ひ堅たる事と見へけ
+  ト云テ。イサメケレド更ニユルギナク思ヒ堅タル事ト見ヘケ
-  れば。かく是程思取れたらんに至ては留むるに不及さるべきに
+  レバ。カク是程思取レタランニ至テハ留ムルニ不及サルベキニ
-  こそあらめとて其程の用意なんど力を分て。もろともに沙
+  コソアラメトテ其程ノ用意ナンド力ヲ分テ。モロトモニ沙
-  汰しけり終に桂河の深き所に至て念仏たかく申し。時へ／n17r
+  汰シケリ終ニ桂河ノ深キ所ニ至テ念仏タカク申シ。時ヘ／n17r
-  て水の底に沈みぬ其時聞及ふ人市の如く集りて且は
+  テ水ノ底ニ沈ミヌ其時聞及フ人市ノ如ク集リテ且ハ
-  貴み悲ふ事限なし卜蓮は年ごろ見なれたる物をと
+  貴ミ悲フ事限ナシ卜蓮ハ年ゴロ見ナレタル物ヲト
-  哀に覚て涙を押つつ帰にけり。かくて日比ふるままに卜蓮
+  哀ニ覚テ涙ヲ押ツツ帰ニケリ。カクテ日比フルママニ卜蓮
-  物のけめかしき病をす。あたりの人あやしく思て。こととしけ
+  物ノケメカシキ病ヲス。アタリノ人アヤシク思テ。コトトシケ
-  る程に霊あらはれてありし蓮花城と名のりければ此事
+  ル程ニ霊アラハレテアリシ蓮花城ト名ノリケレバ此事
-  げにと覚へず。年ころ相しりてをはりまて更に恨らるべき事
+  ゲニト覚ヘズ。年コロ相シリテヲハリマテ更ニ恨ラルベキ事
-  なし況や発心のさまなをざりならず貴くてをはり給ひしに
+  ナシ況ヤ発心ノサマナヲザリナラズ貴クテヲハリ給ヒシニ
-  非すや。かたかた何の故にや思はぬさまにて来るらんと云ふ物
+  非スヤ。カタカタ何ノ故ニヤ思ハヌサマニテ来ルラント云フ物
-  のけの云やう其事也よく制し給ひし物を我心の程を
+  ノケノ云ヤウ其事也ヨク制シ給ヒシ物ヲ我心ノ程ヲ
-  しらで云甲斐なき死にをして侍り。さばかり人の為の事／n17l
+  シラデ云甲斐ナキ死ニヲシテ侍リ。サバカリ人ノ為ノ事／n17l
-  にもあらねば其きはにて思かへすべしとも覚へざりしかど。い
+  ニモアラネバ其キハニテ思カヘスベシトモ覚ヘザリシカド。イ
-  かなる天魔のしわざにて有けん。まさしく水に入んとせし時
+  カナル天魔ノシワザニテ有ケン。マサシク水ニ入ントセシ時
-  忽にくやしくなんなりて侍し。されどもさばかりの人中に
+  忽ニクヤシクナンナリテ侍シ。サレドモサバカリノ人中ニ
-  いかにして我心と思かへさん。哀たた今制し給へかしと
+  イカニシテ我心ト思カヘサン。哀タタ今制シ給ヘカシト
-  思て目を見合たりしかど。知ぬがほにて今はとくとくと
+  思テ目ヲ見合タリシカド。知ヌガホニテ今ハトクトクト
-  もよをして沈てん恨めしさに何の往生の事もをぼへず。
+  モヨヲシテ沈テン恨メシサニ何ノ往生ノ事モヲボヘズ。
-  すすろなる道に入て侍る也。此事我愚なる過なれは人を
+  ススロナル道ニ入テ侍ル也。此事我愚ナル過ナレハ人ヲ
-  恨申べきならねど。最期に口惜と思し一念によりて。かく
+  恨申ベキナラネド。最期ニ口惜ト思シ一念ニヨリテ。カク
-  まうで来るなりと云ける是こそげに宿業と覚へて侍
+  マウデ来ルナリト云ケル是コソゲニ宿業ト覚ヘテ侍
-  れ且は又末の世の人の誡となりぬべし。人の心はかりがた／n18r
+  レ且ハ又末ノ世ノ人ノ誡トナリヌベシ。人ノ心ハカリガタ／n18r
-  き物なれば必しも清浄質直の心よりもをこらず或は勝他
+  キ物ナレバ必シモ清浄質直ノ心ヨリモヲコラズ或ハ勝他
-  名聞にも住し或は憍慢嫉妬をもととして。をろかに身灯
+  名聞ニモ住シ或ハ憍慢嫉妬ヲモトトシテ。ヲロカニ身灯
-  入海するは浄土に生るるぞと計しりて。心のはやるままに加様
+  入海スルハ浄土ニ生ルルゾト計シリテ。心ノハヤルママニ加様
-  の行を思立事し侍りなん則外道の苦行にをなじ大
+  ノ行ヲ思立事シ侍リナン則外道ノ苦行ニヲナジ大
-  なる邪見と云べし。其故に火水に入。くるしみなのめならず
+  ナル邪見ト云ベシ。其故ニ火水ニ入。クルシミナノメナラズ
-  其心ざし深からずは如何かたえ忍ばん。苦患あれば又心やす
+  其心ザシ深カラズハ如何カタエ忍バン。苦患アレバ又心ヤス
-  からず仏の助より外には正念ならん事極て堅し。中にも
+  カラズ仏ノ助ヨリ外ニハ正念ナラン事極テ堅シ。中ニモ
-  愚なる人のことくさまで身灯はえせじ水には安してんと申
+  愚ナル人ノコトクサマデ身灯ハエセジ水ニハ安シテント申
-  侍めり則余所目なだらかにて其心しらぬゆへなるべし或
+  侍メリ則余所目ナダラカニテ其心シラヌユヘナルベシ或
-  聖の語しは彼水にをぼれて既に死なんと仕しを人に／n18l
+  聖ノ語シハ彼水ニヲボレテ既ニ死ナント仕シヲ人ニ／n18l
-  助られて。からうしていきたる事侍りき。その時はな口よ
+  助ラレテ。カラウシテイキタル事侍リキ。ソノ時ハナ口ヨ
-  り水入て責し程のくるしみは。たとゐ地獄の苦なりとも
+  リ水入テ責シ程ノクルシミハ。タトヰ地獄ノ苦ナリトモ
-  さばかりこそはと覚へ侍りしか。然を人の水を安事と思
+  サバカリコソハト覚ヘ侍リシカ。然ヲ人ノ水ヲ安事ト思
-  へるは未だ水の人殺す様をしらぬ也と申侍りし。或人の云
+  ヘルハ未ダ水ノ人殺ス様ヲシラヌ也ト申侍リシ。或人ノ云
-  諸の行ひは皆我心にあり。みつから勤て自か知へし余所
+  諸ノ行ヒハ皆我心ニアリ。ミツカラ勤テ自カ知ヘシ余所
-  にははからひ難き事也都て過去の業因も未来の果報
+  ニハハカラヒ難キ事也都テ過去ノ業因モ未来ノ果報
-  も仏天加護もうち傾きて我心のほどを安せば。をのづ
+  モ仏天加護モウチ傾キテ我心ノホドヲ安セバ。ヲノヅ
-  からをしはかられぬべし且々一ことを顕す若人仏道を行
+  カラヲシハカラレヌベシ且々一コトヲ顕ス若人仏道ヲ行
-  なはん為に山林にもまじはり。ひとり壙野の中にもをらん
+  ナハン為ニ山林ニモマジハリ。ヒトリ壙野ノ中ニモヲラン
-  時猶身を恐れ寿を惜心あらば必しも仏擁護し給／n19r
+  時猶身ヲ恐レ寿ヲ惜心アラバ必シモ仏擁護シ給／n19r
-  らんとは憑べからず。かきかべをもかこゐ遁べきかまへを
+  ラントハ憑ベカラズ。カキカベヲモカコヰ遁ベキカマヘヲ
-  して。自ら身を守り病をたすけて。やうやうすすまん事
+  シテ。自ラ身ヲ守リ病ヲタスケテ。ヤウヤウススマン事
-  を願つべし若ひたすら仏に奉りつる身ぞと思て。虎を
+  ヲ願ツベシ若ヒタスラ仏ニ奉リツル身ゾト思テ。虎ヲ
-  ほかみ来りて犯すとも。あながちに恐るる心なく食物
+  ホカミ来リテ犯ストモ。アナガチニ恐ルル心ナク食物
-  たえてうえ死ぬとも。うれはしからず覚る程になりなば仏も
+  タエテウエ死ヌトモ。ウレハシカラズ覚ル程ニナリナバ仏モ
-  必ず擁護し給菩薩も聖衆も来りて守り給ふべし
+  必ズ擁護シ給菩薩モ聖衆モ来リテ守リ給フベシ
-  法の悪鬼も毒獣も便を得べからず。ぬす人は念を起し
+  法ノ悪鬼モ毒獣モ便ヲ得ベカラズ。ヌス人ハ念ヲ起シ
-  てさり。病は仏力によりていゑなん。是を思わかず心は心と
+  テサリ。病ハ仏力ニヨリテイヱナン。是ヲ思ワカズ心ハ心ト
-  してあさく。仏天の護持をたのむは。あやうき事也とか
+  シテアサク。仏天ノ護持ヲタノムハ。アヤウキ事也トカ
-  たり侍りし。此事さもときこゆ／n19l
+  タリ侍リシ。此事サモトキコユ／n19l