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text:hosshinju:h_hosshinju2-09
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text:hosshinju:h_hosshinju2-09 [2017/04/22 23:56] (現在) – 作成 Satoshi Nakagawa
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 +発心集
 +====== 第二第9話(21) 助重、一声念仏に依つて往生の事 ======
 +
 +===== 校訂本文 =====
 +
 +承久のころ、前滝口助重といふ者ありけり。近江国蒲生の郡の人なり。
 +
 +盗人に会ひて、射殺されける間に、その矢の背中に当る時、声を上げて、「南無阿弥陀仏」と、ただ一声申して死しぬ。その声、高く、隣の里に聞こえけり。
 +
 +人来て、これを見ければ、西に向ひて、居ながら眼を閉ぢてなむありけり。
 +
 +時に、入道寂因といふ者ありけり。助重があひ知れる者なれど、家近からねば、このことを知らず。その夜の夢に見るやう、広き野を行くに、かたはらに死人あり。僧、多く集りて言ふ、「ここに往生人あり。なんぢ、これを見るべし」と言ふ。行きて見れば、「助重なりけり」と見て、夢覚めぬ。「あやし」と思ふほどに、朝(あした)に、助重が使ふ童来たつて、この由(よし)を告げけり。
 +
 +また、ある僧、近江国を修行しけり。夢の内に、人告ぐるやう、「今、往生人あり。行きて縁を結ぶべし」と言ふ。その所、助重が家なりけり。月日、またたがはずありけり。
 +
 +かの僧正(([[h_hosshinju2-08|前話]]の鳥羽僧正をさす。))の年来の行徳、助重が一声の
 +念仏のほかの事なれど、かれは悪道に留まり、これは浄土に生まる。ここに知んぬ、凡夫の愚かなる心にて、人の徳ほど、計りがたきことなり。
 +
 +===== 翻刻 =====
 +
 +    助重依一声念仏往生事
 +  承久ノ比前瀧口助重ト云物アリケリ。近江国蒲
 +  生ノ郡ノ人也。盗人ニアヒテ射コロサレケル間ニ其
 +  箭ノ背ニアタル時声ヲアケテ南無阿弥陀仏トタタ
 +  一声申テ死シヌ。其声高トナリノ里ニ聞ケリ。人来テ
 +  是ヲ見ケレバ。西ニ向テ居ナカラ眼ヲトヂテナム有
 +  ケリ。時ニ入道寂因ト云者アリケリ。助重カ相知
 +  ル者ナレド家近カラネバ此事ヲ知ス。其夜ノ夢ニ
 +  見ル様広野ヲ行ニ傍ニ死人アリ。僧多ク集テ云/n22r
 +
 +  ココニ往生人アリ。汝此ヲ見ルベシト云フ。行テ見レハ助
 +  重也ケリト見テ夢サメヌ。アヤシト思ホドニ朝ニ助重カ
 +  ツカフ童来テ此由ヲツゲケリ。又或僧近江国ヲ修
 +  行シケリ。夢ノ内ニ人ツグル様今往生人アリ行テ
 +  縁ヲムスブベシト云其所助重ガ家也ケリ。月日又タカ
 +  ハズ有ケリ。彼僧正ノ年来ノ行徳助重カ一声ノ
 +  念仏ノ外ノ事ナレト。彼ハ悪道ニ留リ。此ハ浄土ニ
 +  生ル。爰知ヌ凡夫ノ愚ナル心ニテ人ノ徳程計リ
 +  難キ事也/n22l
  
text/hosshinju/h_hosshinju2-09.txt · 最終更新: 2017/04/22 23:56 by Satoshi Nakagawa