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--- text:hosshinju:h_hosshinju1-05 [2017/03/31 16:21] – 作成 Satoshi Nakagawa
+++ text:hosshinju:h_hosshinju1-05 [2017/04/02 19:03] (現在) – [巻一第5話(5) 多武峰僧賀上人、遁世往生の事] Satoshi Nakagawa
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 発心集
-====== 巻一第5話(5) 多武峰僧賀上人、遁世往生の事 ======
+====== 第一第5話(5) 多武峰僧賀上人、遁世往生の事 ======
 ===== 校訂本文 =====
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     多武峯僧賀上人遁世往生事
-  僧賀上人は経平の宰相の子慈恵僧正の弟子也。
+  僧賀上人ハ経平ノ宰相ノ子慈恵僧正ノ弟子也。
-  此人少しに碩徳人に勝たりければ行末には無止人な
+  此人少シニ碩徳人ニ勝タリケレバ行末ニハ無止人ナ
-  らむと普くほめ相たりけり。然とも心の内には深く世を
+  ラムト普クホメ相タリケリ。然トモ心ノ内ニハ深ク世ヲ
-  厭て名利にほだされず極楽に生れむ事をのみぞ人し
+  厭テ名利ニホダサレズ極楽ニ生レム事ヲノミゾ人シ
-  れす願はれける。思はかり道心の発らぬ事をのみぞ歎て
+  レス願ハレケル。思ハカリ道心ノ発ラヌ事ヲノミゾ歎テ
-  根本中堂に千夜参て夜ごとに千返の礼をして道心
+  根本中堂ニ千夜参テ夜ゴトニ千返ノ礼ヲシテ道心
-  を祈申けり。始は礼の度ごとに聊も音立る事も無
+  ヲ祈申ケリ。始ハ礼ノ度ゴトニ聊モ音立ル事モ無
-  りけるが。六七百夜になりては付給へ付給へと忍やかに云て／n13l
+  リケルガ。六七百夜ニナリテハ付給ヘ付給ヘト忍ヤカニ云テ／n13l
-  礼しければ。聞人此僧は何事を祈り天狗付給へと
+  礼シケレバ。聞人此僧ハ何事ヲ祈リ天狗付給ヘト
-  云かなんど且はあやしみ且は笑けり。終方になりて道心
+  云カナンド且ハアヤシミ且ハ笑ケリ。終方ニナリテ道心
-  付給へとさだかに聞へける時哀なりなんと云ける。斯し
+  付給ヘトサダカニ聞ヘケル時哀ナリナント云ケル。斯シ
-  つつ千夜満て後さるべきにやありけん世を厭心いとと
+  ツツ千夜満テ後サルベキニヤアリケン世ヲ厭心イトト
-  深く成にければ争身をいたづらになさんと次を待ほどに
+  深ク成ニケレバ争身ヲイタヅラニナサント次ヲ待ホドニ
-  有時内論義と云事ありけり。定る事にて論義すべき
+  有時内論義ト云事アリケリ。定ル事ニテ論義スベキ
-  ほどのをはりぬれば饗を庭になけすつれば。諸の乞食方々に
+  ホドノヲハリヌレバ饗ヲ庭ニナケスツレバ。諸ノ乞食方々ニ
-  集りてあらそひ取て食習なるを。此宰相禅師俄に
+  集リテアラソヒ取テ食習ナルヲ。此宰相禅師俄ニ
-  大衆の中よりはしり出て此を取てくふ。見る人此の禅師
+  大衆ノ中ヨリハシリ出テ此ヲ取テクフ。見ル人此ノ禅師
-  は物にくるふかとののしりさはぐを聞て我は物にくるはずかく／n14r
+  ハ物ニクルフカトノノシリサハグヲ聞テ我ハ物ニクルハズカク／n14r
-  いはるる大衆達こそ物にくるはるめれと云て更に驚かず。
+  イハルル大衆達コソ物ニクルハルメレト云テ更ニ驚カズ。
-  あさましと云あふ程に此を次として籠居しにけり。後には
+  アサマシト云アフ程ニ此ヲ次トシテ籠居シニケリ。後ニハ
-  大和国たふの峯と云所に居て思はかり勤行て年
+  大和国タフノ峯ト云所ニ居テ思ハカリ勤行テ年
-  を贈ける。其後貴き聞ありて。時の后の宮の戒師に
+  ヲ贈ケル。其後貴キ聞アリテ。時ノ后ノ宮ノ戒師ニ
-  召けれは憖に参て南殿のかうらんのきわによりてさまさまに
+  召ケレハ憖ニ参テ南殿ノカウランノキワニヨリテサマサマニ
-  見苦き事共を云かけて空く出ぬ。亦仏供養せんと云
+  見苦キ事共ヲ云カケテ空ク出ヌ。亦仏供養セント云
-  人のもとへ行間に。説法すべき様なんと道すから案すとて。
+  人ノモトヘ行間ニ。説法スベキ様ナント道スカラ案ストテ。
-  名利を思にこそ魔縁便を得てげりとて。行つくやをそき。
+  名利ヲ思ニコソ魔縁便ヲ得テゲリトテ。行ツクヤヲソキ。
-  そこはかとなき事をとがめて施主といさかひて供養をも
+  ソコハカトナキ事ヲトガメテ施主トイサカヒテ供養ヲモ
-  とげすして帰りぬ。此等の有様は人にうとまれて再加様／n14l
+  トゲスシテ帰リヌ。此等ノ有様ハ人ニウトマレテ再加様／n14l
-  の事を云かけられじとなるべし又師僧正悦申し給ける
+  ノ事ヲ云カケラレジトナルベシ又師僧正悦申シ給ケル
-  時。せんくうの数に入て。からざけと云物を太刀にはきて。
+  時。センクウノ数ニ入テ。カラザケト云物ヲ太刀ニハキテ。
-  骨限なる女牛のあさましげなるに乗てやかた口仕まつ
+  骨限ナル女牛ノアサマシゲナルニ乗テヤカタ口仕マツ
-  らむとてをもしろく折まはりけれは。見物のあやしみ驚ぬはな
+  ラムトテヲモシロク折マハリケレハ。見物ノアヤシミ驚ヌハナ
-  かりけり。かくて名聞こそくるしかりけれ。かたいのみそたの
+  カリケリ。カクテ名聞コソクルシカリケレ。カタイノミソタノ
-  しかりとうたひて打離にける。僧正も凡人ならねは彼我
+  シカリトウタヒテ打離ニケル。僧正モ凡人ナラネハ彼我
-  こそやかたくちうためと宣音の。僧正の耳には悲き哉我
+  コソヤカタクチウタメト宣音ノ。僧正ノ耳ニハ悲キ哉我
-  師悪道に入なむとすと聞へければ。車の内にて此も利生の
+  師悪道ニ入ナムトスト聞ヘケレバ。車ノ内ニテ此モ利生ノ
-  為なりとなむ答給ひける。此聖人命終らんとしける時先
+  為ナリトナム答給ヒケル。此聖人命終ラントシケル時先
-  碁盤を取寄て独碁を打。次に障泥を乞て是を／n15r
+  碁盤ヲ取寄テ独碁ヲ打。次ニ障泥ヲ乞テ是ヲ／n15r
-  かづきて小蝶と云舞のまねをす。弟子共あやしむて問
+  カヅキテ小蝶ト云舞ノマネヲス。弟子共アヤシムテ問
-  ければ。いとけなかりし時此二事を人にいさめられて
+  ケレバ。イトケナカリシ時此二事ヲ人ニイサメラレテ
-  思なから空くやみにしが心にかかりたれは。若生死の執と
+  思ナカラ空クヤミニシガ心ニカカリタレハ。若生死ノ執ト
-  なる事もそ有と思てとこそ云れけれ。既聖衆の迎を
+  ナル事モソ有ト思テトコソ云レケレ。既聖衆ノ迎ヲ
-  見て悦て哥をよむ
+  見テ悦テ哥ヲヨム
-    みつはさす八十あまりの老の浪くらけの骨にあひにける哉
+    ミツハサス八十アマリノ老ノ浪クラケノ骨ニアヒニケル哉
-  と読てをわりにけり。此人のふるまい世の末には物くるひ
+  ト読テヲワリニケリ。此人ノフルマイ世ノ末ニハ物クルヒ
-  とも云つべけれども。境界離れんための思ばかりなれば。其に
+  トモ云ツベケレドモ。境界離レンタメノ思バカリナレバ。其ニ
-  付ても有がたきためしに云置けり。人にまじはる習ひ高に
+  付テモ有ガタキタメシニ云置ケリ。人ニマジハル習ヒ高ニ
-  随ひ下れるを哀むに付ても。身は他人の物となり。心は／n15l
+  随ヒ下レルヲ哀ムニ付テモ。身ハ他人ノ物トナリ。心ハ／n15l
-  恩愛の為につかはる。是此世の苦のみに非ず。出離の大
+  恩愛ノ為ニツカハル。是此世ノ苦ノミニ非ズ。出離ノ大
-  なるさわりなり。境界を離れんより外にはいかにしてか乱
+  ナルサワリナリ。境界ヲ離レンヨリ外ニハイカニシテカ乱
-  やすき心をしつめむ／n16r
+  ヤスキ心ヲシツメム／n16r