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text:hosshinju:h_hosshinju1-01 [2017/03/16 20:41] – 作成 Satoshi Nakagawatext:hosshinju:h_hosshinju1-01 [2017/03/16 21:30] – [校訂本文] Satoshi Nakagawa
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 かれも見知れる気色ながら、ことさら目見あはず。走り寄りて、「いかでか、かくては」とも言ひまほしけれど、いたく人しげければ、「なかなかあやしかりぬべし。上りざまに、夜など、居給へらむ所に尋ね行きて、のどかに聞こへむ」とて、過ぎにけり。 かれも見知れる気色ながら、ことさら目見あはず。走り寄りて、「いかでか、かくては」とも言ひまほしけれど、いたく人しげければ、「なかなかあやしかりぬべし。上りざまに、夜など、居給へらむ所に尋ね行きて、のどかに聞こへむ」とて、過ぎにけり。
  
-かくて、帰るさに、その渡りに至りて見れば、あらぬ渡守なり。まづ、目暗れ、胸ふたがりて、細かに尋ぬれば、「さる法師侍り。年ごろ、この渡守にて侍りしを、さやうの下臈ともなく、常に心を澄まして、念仏をのみ申して、かずかずに船賃取ることもなくして、ただ今うち食ふ物などの外の物をむさぶる心もなく侍りしかば、このの郷の人も、いみじういとほしうし侍りしほどに、いかなることかありけむ、過ぎぬるころ、掻き消つやうに失せて、行方も知らず」と語るに、悔しくわりなく思えて、その月日を数ふれば、わが見あひたる時にぞありける。「身の有様を知られぬ」とて、また去りにけるなるべし。+かくて、帰るさに、その渡りに至りて見れば、あらぬ渡守なり。まづ、目暗れ、胸ふたがりて、細かに尋ぬれば、「さる法師侍り。年ごろ、この渡守にて侍りしを、さやうの下臈ともなく、常に心を澄まして、念仏をのみ申して、かずかずに船賃取ることもなくして、ただ今うち食ふ物などの外の物をむさぶる心もなく侍りしかば、このの郷の人も、いみじういとほしうし侍りしほどに、いかなることかありけむ、過ぎぬるころ、掻き消つやうに失せて、行方も知らず」と語るに、悔しくわりなく思えて、その月日を数ふれば、わが見あひたる時にぞありける。「身の有様を知られぬ」とて、また去りにけるなるべし。
  
 このことは、物語にも書きて侍るとなむ。人のほのぼの語りしばかりを書きけるなり。 このことは、物語にも書きて侍るとなむ。人のほのぼの語りしばかりを書きけるなり。
text/hosshinju/h_hosshinju1-01.txt · 最終更新: 2017/03/16 23:52 by Satoshi Nakagawa