text:chomonju:s_chomonju726
古今著聞集 魚虫禽獣第三十
726 伶人助元府役懈怠のことによりて左近府の下倉に召し籠めらる・・・
校訂本文
伶人助元1)、府役懈怠(けだい)のことによりて、左近府の下倉(したくら)に召し籠めらる。「この下倉には、蛇蝎(だかつ)の住むなるものを」と恐れをなすところに、案のごとく、夜中ばかりに大蛇来たれり。頭(かしら)は獅子に似たり。眼(まなこ)は鋺(かなまり)のごとくにて、三尺ばかりなる下を差し出だして、大口を開きて、すでに飲まんとす。
助元、魂失せながら、最後と思ひ切りて、腰なる笛を抜き出でて、還城楽(げんじやうらく)2)の破を吹く。大蛇、来たりとどまりて、首を高くもて上げて、しばらく笛を聞く気色にて帰りにけり。
翻刻
伶人助元府役懈怠の事によりて左近府の したくらにめしこめらるこの下倉には蛇蝎のすむ/s565r
なるものをとおそれをなすところにあむのこと く夜中はかりに大蛇きたれりかしらは師子に にたりまなこはかなまりのことくにて三尺はかり なるしたをさしいたして大口をあきてすてに のまんとす助元たましひうせなから最後とお もひきりてこしなる笛をぬきいてて還城楽 破をふく大蛇きたりととまりてくひをたかく もてあけてしはらく笛をきくけしきにてか へりにけり/s565l
text/chomonju/s_chomonju726.txt · 最終更新: 2021/02/07 11:46 by Satoshi Nakagawa