text:chomonju:s_chomonju717
古今著聞集 魚虫禽獣第三十
717 豊前国の住人太郎入道といふ者ありけり男なりける時常に猿を射けり・・・
校訂本文
豊前国の住人太郎入道といふ者ありけり。男なりける時、常に猿を射けり。
ある日、山を過ぐるに、大猿ありければ、木に追ひのぼせて射たりけるほどに、あやまたず、かせぎに射てけり。すでに木より落ちむとしけるが、何とやらん、物を木のまたに置くやうにするを見れば、子猿なりけり。をのが傷を負ひて土に落ちむとすれば、子猿を負ひたるを助けんとて、木のまたにすゑむとしけるなり。子猿はまた母につきて離れじとしけり。かくたびたびすれども、なほ子猿つきければ、もろともに地に落ちにけり。
それより長く猿を射ることをばとどめてけり。
翻刻
豊前国住人太郎入道といふもの有けり男なりける 時つねに猿をいけり或日山をすくるに大猿あり けれは木にをいのほせていたりけるほとにあやまた すかせきにいてけりすてに木よりおちむとし けるかなにとやらん物を木のまたにをくやうにするをみ れは子さるなりけりをのかきすををいてつちにおち むとすれはこさるををいたるをたすけんとて木のまたに すゑむとしけるなりこさるは又母につきてはなれし としけりかくたひたひすれともなをこさるつきけれは/s556r
もろともに地におちにけりそれよりなかく猿を いる事をはととめてけり/s556l
text/chomonju/s_chomonju717.txt · 最終更新: 2021/01/30 00:04 by Satoshi Nakagawa