text:chomonju:s_chomonju701
古今著聞集 魚虫禽獣第三十
701 近江国高島郡に平等院領河上荘といふ所に武蔵阿闍梨勝覚といふ僧あり・・・
校訂本文
近江国高島郡に、平等院領河上荘といふ所に、武蔵阿闍梨勝覚といふ僧あり。件(くだん)の勝覚が父の家に飼ひける牛、夜ごとに必ずうめくこと侍りけり。
そのうめき声、ただにあらで、もの言ふやうに聞こえければ、人怪しみて耳を立てて聞きければ、阿弥陀経になん聞きなしてけり。「もし、ひが聞きか」と人をかへて聞かするに、みな同じさまに聞く。うめき始むるより声を合はせて阿弥陀経を読むに、首尾あひかなひて果てけり。必ず夜に一度かくうめきける。
先生(せんじやう)の阿弥陀経の持者の畜生道に入りけるにや。あはれなることなり。
翻刻
近江国高嶋郡に平等院領河上庄といふ所に武蔵 阿闍梨勝覚といふ僧あり件勝覚か父家にかいける 牛夜ことに必うめくこと侍けりそのうめきこゑたたに あらて物いふやうにきこえけれは人あやしみて耳/s548r
をたててききけれは阿弥陀経になんききなしてけり もしひかききかと人をかへてきかするにみなおなしさま にきくうめきはしむるよりこゑをあはせて阿弥陀経 をよむに首尾あひかなひてはてけりかならす夜に 一度かくうめきける先生の阿弥陀経の持者の畜 生道にいりけるにやあはれなる事也/s548l
text/chomonju/s_chomonju701.txt · 最終更新: 2021/01/23 22:43 by Satoshi Nakagawa