text:chomonju:s_chomonju695
古今著聞集 魚虫禽獣第三十
695 渡辺に往年の堂あり・・・
校訂本文
渡辺に往年の堂あり。薬師堂とぞいふなる。源三左衛門翔(かける)1)が先祖の氏寺なり。
番(つごう)2)の馬允が時、この堂を修理しけるに、もと柿葺(こけらぶ)きにてありけるが、年久くなりて、みな朽ち腐りて侍りけるを、葺きかへんとて、上(うへ)を取り破りて侍りけるに、大きなる蛇(くちなは)ありけり。何とかしたりけん、大きなる釘に打ち付けられて、年ごろはたらきもせで、かくてありけるなり。
その時、この堂建立の年紀を数ふれば、六十余年になりにけり。その間、かく打ち付けられながら生きてありける命長さ、恐しきことなり。その蛇のありける下の裏板は、油磨きなどしたるやうにて、きらめきたりけり。いかなるゆゑにか、おぼつかなし。
これはまさしく翔が語りけるなり。
翻刻
渡辺に往年の堂あり薬師堂とそいふなる源 三左衛門かけるか先祖の氏寺也つかふの馬允か時こ の堂を修理しけるにもとこけらふきにてありけ るか年久くなりてみなくちくさりて侍けるを 葺かへんとてうへをとりやふりて侍けるに大なる くちなはありけりなにとかしたりけんおほきなる 釘にうちつけられてとし比はたらきもせてかくて ありける也其時この堂建立の年紀をかそふれは 六十余年になりにけり其あひたかくうちつけ られなからいきてありける命なかさおそろしき/s542l
http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/542
事也その蛇のありけるしたのうらいたはあふらみか きなとしたるやうにてきらめきたりけりいかな る故にかおほつかなしこれはまさしくかけるかかたりけるなり/s543r
text/chomonju/s_chomonju695.txt · 最終更新: 2021/01/21 22:36 by Satoshi Nakagawa