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text:chomonju:s_chomonju675

古今著聞集 魚虫禽獣第三十

675 延喜の野の行幸に御剣の石突を落させ給ひたりければ・・・

校訂本文

延喜1)の野の行幸に、御剣の石突(いしづき)を落させ給ひたりければ、「希有のことなり。古き物を」とて、思し歎かせ給ひて、高き塚の上にうち上がらせ給ひて御覧じければ、御犬、件(くだん)の石突をくはへて参りたりける。これは剣の高名なり。

その剱は、雷鳴の時はみづから抜くといへり。しかあれども、今の世には知らず。京極大殿2)は恐れをなして、「抜くべからず」とぞ仰せられける。しかあれども、不審によりて、ある人をもて抜かせて御覧じければ、みねの方によりて、金をもて「坂上宝剣3)」と蒔きたりけり。

知足院殿4)伝へて持たせ給ひたりけるを、白河院5)より召されければ、参らせられにけり。式部卿敦実親王の剣と今はこれとなり。

翻刻

延喜野行幸に御剱のいしつきをおとさせ給たりけ
れは希有の事也ふるき物をとておほしなけかせたま
ひてたかきつかのうへにうちあからせ給て御覧しけれは
御犬件のいしつきをくはへてまいりたりけるこれは剱の
高名なり其剱は雷鳴の時はみつからぬくといへりしかあれと/s528r
も今の世にはしらす京極大殿はおそれをなしてぬく
へからすとそ仰られけるしかあれとも不審によりて
或人をもてぬかせて御らんしけれはみねのかたにより
て金をもて坂上実釼と蒔たりけり知足院殿つたへ
てもたせ給たりけるを白河院よりめされけれはま
いらせられにけり式部卿敦実親王の剱といまはこれ
となり/s528l

http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/528

1)
醍醐天皇
2)
藤原師実
3)
「宝剣」は底本「実剣」。諸本により訂正。
4)
藤原忠実
5)
白河天皇
text/chomonju/s_chomonju675.txt · 最終更新: 2021/01/12 22:54 by Satoshi Nakagawa