text:chomonju:s_chomonju667
古今著聞集 草木第二十九
667 二品の綾小路壬生の家に鞠の懸に柳三本ありけり・・・
校訂本文
二品(時賢卿)1)の綾小路壬生の家に、鞠の懸(かかり)に柳三本ありけり。そのうち戌亥のすみの木に、烏、巣をくひ侍りけるを、いかが思ひけむ、その烏、その巣を運びて、向ひの桃の木に作りてけり。
人々、怪しみあへりけるほどに、一両日を経て、関白殿2)より柳を召されたりけり。二品、その時他所にゐられたりけるほどなりければ、御使向ひて御教書(みげうしよ)を付けたりければ、すみやかに向かひて、「いづれにても、はからひて掘りて参るべき」よし、言ひければ、御使、かの亭に向ひて、その柳のうち二本を掘りて参るうち、烏の巣くひたりし木をむねと掘りてけり。烏はこのことをかねて悟りけるにこそ。
さて、この木、一条殿に植ゑられたりけるが、二本ながら枯れにけり。それに本所に今一本残りたるも、同じく枯れにける、おぼつかなきことなり。友木枯るれば3)かかることにや。
近く滋野井(しげのゐ)の柳を一本他所へ移し植ゑたりけるにも、この定(ぢやう)に残りの木ゆゑなく枯れたりけるとぞ。
翻刻
二品(時賢卿)の綾少路壬生の家に鞠の懸に柳三本 ありけり其内戌亥のすみの木に烏すをくひ 侍けるをいかか思けむその烏そのすをはこひて むかひの桃木に作てけり人々あやしみあへりけるほ とに一両日をへて関白殿より柳をめされたりけり 二品その時他所にゐられたりける程なりけれは御/s524l
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使向て御教書を付たりけれはすみやかにむかひて いつれにてもはからひてほりてまいるへきよしいひ けれは御使彼亭に向てその柳のうち二本をほり てまいるうち烏のすくひたりし木をむねとほり てけり烏はこの事をかねてさとりけるにこそ さて此木一条殿にうへられたりけるか二本な からかれにけりそれに本所にいま一本のこりたるも 同かれにけるおほつかなき事也友木かなれはかかる 事にやちかく滋野井の柳を一本他所へうつしう へたりけるにも此定にのこりの木ゆへなくかれ たりけるとそ/s525r
text/chomonju/s_chomonju667.txt · 最終更新: 2021/01/11 18:15 by Satoshi Nakagawa