text:chomonju:s_chomonju613
古今著聞集 飲食第二十八
613 中関白春日の行幸に供奉し給ひたりけるに御車のうちに酒饌をまうけられて・・・
校訂本文
中関白1)、春日の行幸2)に供奉し給ひたりけるに、御車のうちに酒饌をまうけられて、閑院大将3)・御堂入道殿4)など呼び乗せ奉りて、沈酔のことどもありけり。人々、紐などはづされてけり。御堂殿は、「おそれあり5)」とて、物参りて後は、やがて下りて供奉せさせ給ひけるとぞ。「この日の作法によりて、われ神恩をかうぶる6)とぞ、後に仰せられける。
中関白はかく酒を好み給ひて、常のことぐさに、「極楽世界に按察(あぜち)7)なくは、われまた往生すべからず」とぞ仰せられける。
賀茂詣の時も酔(ゑ)ひて眠り給ひける車の内にて、御冠落ちにけり。社近くなりて、人のそのよし申しければ、驚き給ひて、扇をもちて鬢(びん)を直し給ひければ、もとのごとくめでたくなんおはしけるとぞ。御容儀のよくおはしましけるによりて、かくなむ侍りけるなり。
翻刻
中関白春日行幸に供奉し給たりけるに御車 のうちに酒饌をまうけられて閑院大将御堂入 道殿なとよひのせたてまつりて沈酔の事 ともありけり人々紐なとはつされてけり御 堂殿はおくれありとて物まいりて後はやかており て供奉せさせ給けるとそこの日の作法によりて/s487l
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われ神恩をかそふるとそ後に仰られける中関白 はかく酒をこのみ給てつねのことくさに極楽世界 に按察なくはわれ又往生すへからすとそ仰られ ける賀茂詣の時もゑいて眠たまひける車の うちにて御冠おちにけり社ちかくなりて人の 其よし申けれはおとろきたまひて扇をもちて ひむをなをしたまひけれはもとのことくめてたくなん おはしけるとそ御容儀のよくおはしましけるによりて かくなむ侍りけるなり/s488r
text/chomonju/s_chomonju613.txt · 最終更新: 2020/11/24 16:09 by Satoshi Nakagawa