text:chomonju:s_chomonju592
古今著聞集 変化第二十七
592 同じき七月五日の夜右近の陣下野長用殷富門より参りて・・・
校訂本文
同じき1)七月五日の夜、右近の陣下野長用、殷富門より参りて、武徳殿に至るほどに、前(さき)に黒きもの着て太刀はきたるもの、人を捕らへて一人行きけり。長用、追ひ付きて見れば、この者見返り、白き笏をぞ持(も)たりける。
さて、右衛門陣に至りぬ。陣の内より三位一人、出で合ひたり。供の者、火を灯したりけり。三位、「光臨をあひ待つ」とて、他事をも語らひけり。火を灯したる者は摺衣(すりぎぬ)を着たる。長用、「神鬼にこそ」と恐れ思ひて、走り帰りて、殷富門のもとに至りて、前(さき)の所を見るに、火百余りばかり灯したる者見えけり。やや久しくありてぞ消えける。
翻刻
同七月五日夜右近陣下野長用殷冨門よりまいり て武徳殿にいたるほとにさきに黒きものきて太刀 はきたるもの人をとらへてひとり行けり長用をひつき/s468r
てみれは此もの見かへり白笏をそもたりけるさて 右衛門陣にいたりぬ陣の内より三位一人いてあひたり とものもの火をともしたりけり三位光臨を相待とて 他事をもかたらひけり火をともしたるものはすりきぬ をきたる長用神鬼にこそとおそれ思て走帰て殷 冨門のもとにいたりてさきの所を見るに火百あま りはかりともしたる物みえけりややひさしくありてそきえける/s468l
1)
延長八年。591参照。
text/chomonju/s_chomonju592.txt · 最終更新: 2020/11/10 00:39 by Satoshi Nakagawa