text:chomonju:s_chomonju576
古今著聞集 興言利口第二十五
576 後嵯峨院の御時亀山殿御所のころ高倉宰相茂通卿と栄性法眼とは・・・
校訂本文
後嵯峨院1)の御時、亀山殿御所のころ、高倉宰相2)茂通卿3)と栄性法眼とは昔よりの知音(ちいん)にてありけるに、亀山殿の宿所向ひ合はせにてありければ、朝夕寄り合ひて遊びけるに、茂通卿、栄性が亭へ行き向かひけるやうは、髻(もとどり)を放ちて、小袖・白衣(びやくえ)にて、門を入るよりして、「栄性法眼め、おやまけ、おやまけ」と大声にて言ひて縁を上りければ、栄性とりもあへず、簾の中より、「茂通めも、おやまけ、おやまけ」とぞ言ひける。さて、その後寄り合ひて雑談・酒宴などしけるとかや。知音もかかることやは侍るべき。人の利口にてありけるやらん。
かの栄性法眼は、忍びてある尼をかたらひて持ちたりけり。同宿はしながら4)、さすが同じ所には置かで、中一間を隔ててぞ住まひける。
このことのしたくなりける時は、昼中にも前をかき上げて、「一尺すはむの小仏、頭ふりて参りたり」と言ひて、尼がもとへ歩み行きければ、この尼、とりもあへず、また前をはだけ、「三間四面の小御堂、御戸開きて参り候ふ5)」と答へて、中の間へ行き合ひて始めけりとなん。比興のことなりかし。
翻刻
後嵯峨院の御時亀山殿御所の比高倉宇相茂 通卿と栄性法眼とは昔よりの知音にてあり けるに亀山殿の宿所向あはせにてありけれは朝 夕寄合て遊けるに茂通卿栄性か亭へ行向け るやうは本鳥をはなちて小袖ひやくゑにて門を/s456r
入よりして栄性法眼めおやまけおやまけと大声にてい ひて縁を上けれは栄性とりもあへす簾の中より 茂通めもおやまけおやまけとそいひけるさて其後寄合 て雑談酒宴なとしけるとかや知音もかかる事 やは侍へき人の利口にてありけるやらん 彼栄性法眼は忍てある尼をかたらひて持たりけり 同宿はなからさすかおなし所にはをかて中一間をへた ててそすまひける此事のしたくなりける時はひる 中にもまへをかきあけて一尺すはむの小仏頭ふ りてまいりたりといひて尼かもとへあゆみ行 けれは此尼取もあへす又まへをはたけ三間四面の
http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/456
小御堂御戸ひらきてまいりとこたへて中の間へ行合て はしめけりとなん比興の事なりかし/s457r
text/chomonju/s_chomonju576.txt · 最終更新: 2020/10/29 22:55 by Satoshi Nakagawa