text:chomonju:s_chomonju546
古今著聞集 興言利口第二十五
546 ある宮腹の女房みそか法師を持ちて夜な夜な局へ入れけり・・・
校訂本文
ある宮腹の女房、みそか法師を持ちて1)夜な夜な局へ入れけり。
ある夜、法師、尿(しと)のしたかりければ、「いづくにか穴ある」と女房に尋ねければ、「その竿の下にこそ穴は侍れ。さぐりてしたまへ」と教へければ、この法師、這ひ寄りてさぐるに、穴にさぐりあひにけり。
すでにせんとしけるほどに、折節悪しく屁のひられんとしければ、尿をも念(ねう)じて、ためらひゐたり。尿をいきづまば一定もろともに出でぬべくて、ひかへたるをば知らずして、この女房、「穴をさぐり得ぬ」と心して這ひ寄り、「いづくにぞ」とさぐるほどに、あやまたず手を僧の脇へ差し入れてけり。
この僧、こそばゆさに耐えぬ者なりけるにや、おびえて身をふるふほどに、屁も尿も一度に出でにけり。穴にとり当てたるまらも外れて、尿さんざんにはぜ散らされにけり。
隣の中隔ての遣戸に穴のありけるより尿通りて、遣戸のそばに寝たりける女房の顔にかかりければ、かくとは知らで、「雨の降りて漏るぞ」と心得て、騒ぎまどひける、をかしかりけることかな。
翻刻
或宮はらの女房みそか法師をよちて夜な夜な局 へいれけりある夜法師しとのしたかりけれはいつく にかあなあると女房に尋けれはそのさほのしたに こそあなは侍れさくりてしたまへとをしへけれは この法師はいよりてさくるにあなにさくりあひにけり すてにせんとしける程に折節あしくへのひら れんとしけれはしとをもねうしてためらひゐたり しとをいきつまは一定もろともにいてぬへくてひかへ/s432r
たるをはしらすして此女房あなをさくりえぬと 心してはいよりいつくにそとさくる程にあやまた す手を僧のわきへさしいれてけり此僧こそはゆ さにたえぬ物なりけるにやをひえて身をふる ふ程にへもしとも一度にいてにけりあなにとり あてたるまらもはつれてしとさむさむにはせちら されにけり隣の中へたてのやり戸にあなのあり けるよりしととをりて遣戸のそはにねたりける 女房のかほにかかりけれはかくとはしらて雨のふり てもるそと心えてさはきまとひけるをかしかりける ことかな/s432l
1)
「持ちて」は底本「よちて」。諸本により訂正。
text/chomonju/s_chomonju546.txt · 最終更新: 2020/10/17 16:40 by Satoshi Nakagawa