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古今著聞集 興言利口第二十五
544 外宮権禰宜度会神主盛広三河国なる女をむかへて妻にしたりけるに・・・
校訂本文
外宮権禰宜度会神主盛広1)、三河国なる女をむかへて妻にしたりけるに、かの女が使ひける者の中に筑紫の女ありけり。それをこの盛広、心にかけて、「ひまもがな」と思ひけれども、便(びん)悪しくてむなしく過ぎけり。
ある時、思ひかねて、妻に向ひて言ひけるは、「申すにつけて、そのはばかりあれども、うら なく申さば、よも心置き給はじとて申し出づるぞ。その筑紫の女、われにあはせ給へ。耐えがたくゆかしきこと2)侍り」と言へば、妻の答ふるやう、あながちに、見目・形の良きこともなし。振舞ひことがらのすぐれたるにもあらず。何事のゆかしくて、かくはのたまふぞ」と言へば、盛広、「いまだ知り給はぬか。『つびは筑紫つび』とて、第一の物と言ふなり。さればゆかしくて、かく申すぞ」と言ひけるを聞きて、妻、「よにやすきことなり。されど、のたまふ、まことならば、不定のことなり。『まらは伊勢まら』とて、最上の名を得たれども、なんぢが物は、人知れず小さく弱くて、ありがひなき物なり。筑紫の女の物もさうあらむ。このこと思ひとまるべし」と言ひたりければ、盛広、口を閉ぢて言ふことなかりけり。
翻刻
外宮権禰宜度会神主盛広参川国なる女をむかへ て妻にしたりけるに彼女かつかひける物の中につくし/s430r
の女ありけりそれを此盛広心にかけてひまもかなと 思けれとも便あしくてむなしく過けり或時思かねて 妻に向ていひけるは申につけて其憚あれともうら なく申さはよも心をきたまはしとて申いつるそ其つく しの女われにあはせ給へたえかたくゆかしき侍りとい へは妻のこたふるやうあなかちにみめかたちのよき事 もなしふるまひことからのすくれたるにもあらす 何事の床敷てかくはのたまふそといへは盛広い またしりたまはぬかつひはつくしつひとて第一の物 といふなりされはゆかしくてかく申そといひけるをきき て妻よにやすき事也されとのたまふまことならは/s430l
http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/430
不定の事也まらは伊勢まらとて最上の名をえ たれとも汝か物は人しれすちいさくよはくてありかひ なき物なりつくしの女の物もさうあらむ此事思 とまるへしといひたりけれは盛広口を閉て云事 なかりけり/s431r
text/chomonju/s_chomonju544.txt · 最終更新: 2020/10/14 19:14 by Satoshi Nakagawa