text:chomonju:s_chomonju532
古今著聞集 興言利口第二十五
532 治部卿兼定滋野井の泉にて納涼せられけるに・・・
校訂本文
治部卿兼定1)、滋野井(しげのゐ)の泉にて納涼せられけるに、増円法眼、その座につらなりけり。盃酌の間、治部卿の侍馬允なにがしとかやといひける老者、香の直垂2)のしほれたる着て、尩弱(わうじやく)の体にて、物食ひてゐたりけるが、衰老のものにて、歯3)もなくて食ひ4)わづらひたるを見て、増円、連歌をしける、
老い馬は草食ふべくもなかりけり
治部卿以下、「興ある句なり」とて、とよみののしる。
馬允聞きて、
おもづらはげて野放ちにせむ
と付けたりけるに、満座苦りにけり。
かやうの荒言(くわうげん)は、よくよくひかふべきことなり。
翻刻
治部卿兼定滋野井の泉にて納涼せられけるに増円 法眼其座につらなりけり盃酌のあひた治部卿侍 馬允なにかしとかやといひける老者香のひかられのし ほれたるきて尩弱の体にて物くひてゐたりけるか/s422r
衰老のものにて幽もなくてかひわつらひたるを見 て増円連歌をしける 老むまは草くふべくもなかりけり 治部卿以下興ある句なりとてとよみののしる馬允 ききて おもつらはけて野はなちにせむと付たりけるに満 座にかりにけりかやうの荒言はよくよくひかうへきこと なり増円醍醐寺桜会見物の時舞の最中に見物を/s422l
text/chomonju/s_chomonju532.txt · 最終更新: 2020/10/04 15:23 by Satoshi Nakagawa