text:chomonju:s_chomonju456
古今著聞集 哀傷第二十一
456 後中書王雑仕を最愛せさせ給ひて土御門右大臣をばまうけ給ひけるなり・・・
校訂本文
後中書王1)、雑仕(ざふし)を最愛せさせ給ひて、土御門右大臣2)をばまうけ給ひけるなり。朝夕これを中にすゑて、愛し給ふことかぎりなかりけり。
月の明かかりける夜、件(くだん)の雑仕を具し給ひて、遍照寺へおはしましたりけるに、かの雑仕、物に取られて失せにけり。中書王、歎き悲しみ給ふこと、ことわりにも過ぎたり。思ひあまりて、日ごろありつるままにたがへず、わが御身と失せにし人との中に、この児を置きて見給へる形を、車の物見の裏に、絵に書きて御覧じけり。
さるほどに、寛弘の中殿の御作文に参り給ひて、その車を陣に立てられたりけるほどに、物見落ちたりけるを、牛飼、立つとて、誤りて裏を面(おもて)に立ててけり。
その後、改めらるることなくて、今に3)大顔(おほかほ)の車とて、かの家に乗り給ひつるは、このゆゑに侍るとぞ申し伝へたる。
しかあるを、土御門の大臣(おとど)の母は、式部卿為平4)の御子の御女のよし、系図に註せる、おぼつかなきことなり。尋ね侍るべし。
翻刻
後中書王雑仕を最愛せさせ給て土御門右大臣 をはまうけ給ける也朝夕これを中にすへてあひし 給事かきりなかりけり月のあかかりける夜件雑仕/s360l
http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/360
をくし給て遍照寺へをはしましたりけるに彼 雑仕物にとられて失にけり中書王なけきかな しみ給事ことはりにも過たり思あまりて日来 ありつるままにたかへす我御身と失にしひと との中にこの児ををきて見給へる形を車の 物見の裏に絵に書て御らんしけりさるほとに寛弘 の中殿御作文にまいり給てその車を陣に立られ たりける程に物見落たりけるを牛飼たつとて あやまりて裏を面にたててけり其後あらためらるる 事なくていまゝおほかほの車とてかの家に乗給 つるはこの故に侍とそ申伝たるしかあるを土御門/s361r
のおととの母は式部卿為平の御子の御女のよし 系図に註せるおほつかなき事也尋侍へし敦光/s361l
text/chomonju/s_chomonju456.txt · 最終更新: 2020/08/01 15:44 by Satoshi Nakagawa