古今著聞集 祝言第二十
451 仁平二年正月七日、法皇五十にみたせ給ふ御賀ありける・・・
校訂本文
仁平二年正月七日、法皇1)五十にみたせ給ふ御賀ありける。前の日、鳥羽殿に行幸なりて、古き跡を尋ねて法会を行なはれけり。
大炊御門左大臣2)・妙音院太政大臣殿3)ともに宰相中将にて、楽行事はせさせ給ひけり。
舞人、左、左少将家持朝臣・右中将実長朝臣4)・定房朝臣5)・左少将隆長朝臣6)・実定7)・蔵人左衛門佐忠親8)。右、左少将公親朝臣9)・左少将俊通朝臣10)・左少将公保朝臣11)。
楽人、左、皇后宮亮師国朝臣12)羯鼓(かつこ)、治部大輔雅頼13)摺鼓(すりつづみ)、左馬頭隆季朝臣14)・摂津守重家朝臣15)笙、備後守季兼朝臣16)篳篥(ひちりき)、上総介資賢朝臣17)・侍従成親18)笛、右中将師仲朝臣19)太鼓、大納言教宗20)鉦鼓(しやうこ)。右、少納言成隆朝臣21)三の鼓、中務権大輔季家朝臣22)・侍従信能23)笛、土佐守季行朝臣24)篳篥、頭中将伊方朝臣25)笛、右中将行通朝臣26)太鼓、少納言実経27)鉦鼓、かくぞ侍りける。
右兵衛佐実国28)、笛にて侍りけるが、遅参せられたりけり。
八日の後宴に、御拝・献物・御膳など果てて、舞ひを奏す。春鶯囀の時、右大臣29)・侍従大納言成通卿30)・新大納言公教卿31)、仰せを承りて、御階の前をへて楽屋へ向ひて、右大臣は笙を吹き、両大納言は笛を吹かれけり。中宮権大夫為通卿32)も、同じく楽屋に向ひて、羯鼓をぞ打たれける。
隆長朝臣・実定、青海波を舞はれければ、左大臣33)、一家の人々を引きて楽屋へ向ひ給ふ34)。垣代(かいしろ)には、左大臣笙、民部卿宗輔卿35)笛、季兼朝臣篳篥、舞人光時36)、東の輪のほとりにゐて、詠を唱ふ。
師仲朝臣の子の童、胡飲酒を舞ひけるに、曲終りて退きけるを、御座の傍らに召されて、関白殿御37)、衵(あこめ)を取りて賜はせけり。肩にかけて舞ひて退きけるを、右大臣、童を扶持(ふち)し給ひて、右の肩に御衣(おんぞ)をかけ、左手に笏を持ちて、西の対代(たいしろ)の南の放出(はなちいで)まで一曲を舞ひ給ひけり。童、階のもとに下り立ちて後、右大臣、坤(ひつじさる)の庭にて舞踏し給ひけり。
その後、御馬引かれて御遊(ぎよいう)あり。左大臣・内大臣38)笙、内大臣39)拍子、民部卿箏、藤大納言40)琵琶、侍従大納言笛、資賢朝臣和琴、伊実朝臣付歌(つけうた)、季兼朝臣篳篥。呂律の曲畢(おは)り、勧賞行はれけり。
翻刻
仁平二年正月七日法皇五十にみたせ給御賀ありける 前日鳥羽殿に行幸なりてふるき跡を尋て法会を おこなはれけり大炊御門左大臣妙音院太政大臣殿ともに 宰相中将にて楽行事はせさせ給けり舞人左左少将家 持朝臣右中将実長朝臣定房朝臣左少将隆長朝臣実 定蔵人左衛門佐忠親右少将公親朝臣左少将俊通朝臣 左少将公保朝臣楽人左皇后宮亮師国朝臣羯鼓治 部大輔雅頼摺鼓左馬頭隆季朝臣摂津守重家朝臣笙 備後守季兼朝臣篳篥上総介資賢朝臣侍従成親/s357r
笛右中将師仲朝臣大鼓大納言教宗鉦鼓右少納言 成隆朝臣三鼓中務権大輔季家朝臣侍従信能笛土佐 守季行朝臣篳篥頭中将伊方朝臣笛有中将行通 朝臣大鼓少納言実経鉦鼓かくそ侍ける右兵衛佐実 国笛にて侍けるか遅参せられたりけり八日後宴に 御拝献物御膳なとはてて舞を奏す春鶯囀の時 右大臣侍従大納言成通卿新大納言公教卿仰を承て 御階のまへをへて楽屋へむかひて右大臣は笙をふ き両大納言は笛をふかれけり中宮権大夫為通卿 も同く楽屋に向て羯鼓をそうたれける隆長 朝臣実定青海波をまはれけれは左大臣一家/s357l
http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/357
の人々を引て楽屋へ向て(た歟)まふ垣代には左大臣笙 民部卿宗輔卿笛季兼朝臣篳篥舞人光時東 の輪のほとりにゐて詠をとなふ師仲朝臣子童 胡飲酒を舞けるに曲をはりてしりそきけるを御坐 のかたはらにめされて関白殿御あこめをとりてた まはせけり肩にかけて舞てしりそきけるを右大 臣童を扶持し給て右の肩に御衣をかけ左手に 笏をもちて西対代の南のはなちいてまて一曲を 舞給けり童階のもとにおりたちて後右大臣坤の庭 にて舞踏し給けり其後御馬ひかれて御遊あり 左大臣内大臣笙内大臣拍子民部卿箏藤大納言/s358r
琵琶侍従大納言笛資賢朝臣和琴伊実朝臣 付歌季兼朝臣篳篥呂律曲畢勧賞おこなはれ けり/s358l