text:chomonju:s_chomonju406
古今著聞集 画図第十六
406 一条前摂政殿左大臣におはしましける時居すゑ奉らんとて・・・
校訂本文
一条前摂政殿1)、左大臣におはしましける時、「居すゑ奉らん」とて、一条室町の御所を、光明峰寺入道殿2)、前備中守行範に仰せて修理せられにけり。寛元 三年十月二十九日、御わたましありけり。造りどもも少々改められけり。
寝殿二棟の障子より、「常の唐絵は無念なり」とて、平等院宝蔵の四季の御屏風を、二条関白殿3)、長者にておはしましけるに申されて、取り出だして写されにけり。人々の姿もみな昔絵にてぞ侍るなる。いと見所あり。
武徳殿の競馬(くらべうま)の所に、見も知らぬ人の姿ども多かり。嵯峨野の行幸に、御輿の上に虎の皮を覆ひたるなど、古きことどもを描かれたる、いと興あり。承保の野行幸には、虎皮をば覆はれざりけるとなん。
近衛大殿の御相伝の屏風どもは、みな宝物にて侍る上、せんし4)たればとて、四季の大和絵を一月を一帖に書きて、新しく調ぜられたるとなん。しかるべきことの時、客の座に立てらるるなり。
元日の節会は豊楽院の儀とぞ書きて侍るなる。延喜の御時5)の月の宴、御溝水(みかはみづ)の流れやうなど、古きにたがへす描かれたる、いと興あることになん侍るなる。
翻刻
一条前摂政殿左大臣にをはしましける時居すへた てまつらんとて一条室町の御所を光明峯寺入道殿 前備中守行範に仰て修理せられにけり寛元 三年十月廿九日御わたましありけりつくりともも/s305r
少々あらためられけり寝殿二棟の障子よりつねの 唐絵は無念也とて平等院宝蔵の四季の御屏風 を二条関白殿長者にてをはしましけるに被申て取 出してうつされにけり人々の姿もみな昔絵にて そ侍なるいと見所あり武徳殿の競馬の所にみ もしらぬ人の姿ともおほかり嵯峨野の行幸に 御輿の上に虎の皮をおほひたるなとふるき事 ともをかかれたるいと興あり承保の野行幸には虎 皮をはおほはれさりけるとなん 近衛大殿の御相伝の屏風ともはみな宝物にて侍 うへせんしたれはとて四季の大和絵を一月を一帖/s305l
http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/305
に書てあたらしく調せられたるとなん可然事 の時客の座に立らるる也元日節会は豊楽院 の儀とそ書て侍なる延喜の御時の月宴御溝水 のなかれ様なとふるきにたかへすかかれたるいと興 ある事になん侍なる/s306r
text/chomonju/s_chomonju406.txt · 最終更新: 2020/05/25 18:24 by Satoshi Nakagawa