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text:chomonju:s_chomonju402

古今著聞集 画図第十六

402 順徳院の御位の時新しき御琵琶のありけるをいかなる名をか付くべきとて・・・

校訂本文

順徳院1)の御位の時、新しき御琵琶のありけるを、「いかなる名をか付くべき」とて、蔵人孝時2)に風俗・催馬楽の名、ならびにその歌の詞(ことば)の中に、さもありぬべからん注(しる)し申すべきよし、勅定ありければ、すなはち注進しけり。その中、大鳥を入れたりけるを、「これにてこそあらめ」とて、その名に定まりにけり。

さて、撥面(ばちめん)の絵に描かれんとしける時、「そもそもこの鳥3)の姿はいかなるものぞ。誰か知りたる」と御尋ねありけるに、申す人なかりけるに、源大納言通具卿4)、「絵様(ゑやう)候ふ」とて奉りたりけり。ひえ鳥の色したる鳥の、目・觜(くちばし)など恐しげなるが、太短(ふとみじか)なる姿なるを書きて参らせたりけり。御覧じて、「これは何に見えたるぞ。古く書きたる本のあるか。また、この定(ぢやう)なると注(しる)したる物のあるか」と御尋ねあるに、大納言、つまびらかに申す旨なし。ただ、「わがもとに古くより写し持ちて候ふ」とばかり申されけり。「さてはそのこと正体なし。この人は推しごとする人にこそ」と沙汰ありて、用ゐられずなりにけり。

さて、孝道朝臣5)に御尋ねありければ、「風俗に歌ひて候ふやうは、『大鳥の羽に霜降れり』と候はば、もし鵠(くぐひ)などにてや候はんとぞ推(すい)せられて候ふ。さらでは口伝も候はず。ただ歌の言葉にて推(すい)し申すばかりにて候ふ」と申しければ、「このことさもあり」とて、鵠を描かれたるとぞ。

翻刻

順徳院の御位の時あたらしき御比巴のありけるをいか
なる名をかつくへきとて蔵人孝時に風俗催馬楽
の名并に其哥の詞の中にさもありぬへからん注申すへき
よし勅定ありけれは則注進しけり其中大鳥を
入たりけるをこれにてこそあらめとて其名にさたまりに
けりさて撥面の絵にかかれんとしける時抑此馬の姿
はいかなる物そ誰かしりたると御尋ありけるに申人なかり
けるに源大納言通具卿絵様候とてたてまつりたりけり
ひえ鳥の色したる鳥の目觜なとおそろしけなるかふと
みしかなる姿なるを書てまいらせたりけり御覧して
これはなににみえたるそふるく書たる本のあるか又此定なると/s302l

http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/302

注したる物のあるかと御尋あるに大納言つまひらかに申
旨なし只わかもとにふるくよりうつしもちて候とはかり申
されけりさてはその事正体なし此人はをし事する
人にこそと沙汰ありてもちひられす成にけりさて
孝道朝臣に御尋ありけれは風俗にうたひて候様は
大鳥の羽に霜ふれりと候はもし鵠なとにてや候はん
とそ推せられて候さらては口伝も候はすたた哥の
こと葉にてすいし申斗にて候と申けれは此事
さもありとて鵠をかかれたるとそ/s303r

http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/303

1)
順徳天皇
2)
藤原孝時
3)
「鳥」は底本「馬」。諸本により訂正。
4)
源通具
5)
藤原孝道


text/chomonju/s_chomonju402.txt · 最終更新: 2020/05/21 18:41 by Satoshi Nakagawa