text:chomonju:s_chomonju354
古今著聞集 馬芸第十四
354 正暦二年五月二十八日摂政殿右近の馬場にて競馬十番を御覧じけり・・・
校訂本文
正暦二年五月二十八日、摂政殿1)、右近の馬場にて、競馬(くらべうま)十番を御覧じけり。山井大納言2)・儀同三司3)、ともに中納言にておはしける、左右に分けて、公卿多く参られける。
一番、左、将曹尾張兼時、右、将曹同じく敦行4)つかうまつりけるが、兼時が轡(くつわ)たびたび抜けたりけれども、落つることはなかりけり。さりながらも、つひに敦行勝ちにけり。
兼時、敦行に向かひて、「負けてはいづ方へ行くぞ」と言ひたりけり。人々その言葉を感じて纏頭(てんとう)しけるとなむ。いまだ競馬に負けざりける者にてかく言ひる、いと興ある言ひやうなるべし。
翻刻
正暦二年五月廿八日摂政殿右近馬場にて競馬十 番を御覧しけり山井大納言儀同三司共に中納言 にておはしける左右にわけて公卿おほくまいられける一番 左将曹尾張兼時右将曹同敦行つかうまつりけるか/s259l
http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/259
兼時か轡たひたひぬけたりけれともおつる事はなかりけり さりなからもつゐに敦行勝にけり兼時敦行にむかひて 負てはいつかたへ行そといひたりけり人々其詞を感 して纏頭しけるとなむいまた競馬に負さりける物 にてかくひけるいと興あるいひやうなるへし/s260r
text/chomonju/s_chomonju354.txt · 最終更新: 2020/04/30 12:54 by Satoshi Nakagawa