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text:chomonju:s_chomonju350

古今著聞集 弓箭第十三

350 同じ人のもとにまた賀次新太郎といふ弓の上手ありける・・・

校訂本文

同じ人1)のもとに、また賀次新太郎といふ弓の上手ありける。

年始に弓を射けるに、九度の弓外(はづ)るたび、「今、矢三つ余りたりけり。賀次が矢は一筋なり。当たらむことは不審なけれども、今二つの矢が数余りぬれば、射ても用事なし」と、左右ともに言ひけるを、賀次がいはく、「雁股を許され給ひたらば、緒付(をづけ)をつかうまつて2)持にし侍らん」と言ふを、主人、「悪しく言ふものかな。もし外るることもあるに」と思ひけれども、諸人、目をすまさんがために3)、許して雁股を取らせてけり。賀次よく引きて放ちたるに、言ふがごとく、緒付を射切りて、的、土に落ちにけり。

緒付射つれば、矢数三つに用ゐる習ひなれば、三つの数を矢一筋にて、持になりにけりとなむ。

翻刻

同人のもとに又賀次新太郎といふ弓の上手ありける
年始に弓を射けるに九度の弓はつるたひ今矢
三あまりたりけり賀次か矢は一筋なりあたらむ事
は不審なけれ共今二の矢かかすあまりぬれはいて
も用事なしと左右ともにいひけるを賀次かいはく/s257l

http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/257

狩俣をゆるされ給たらはおつけをつかうまつて持に
し侍らんといふを主人あしくいふ物かなもしはつ
るる事も有にと思けれとも諸人目をままさんか
ためにゆるして狩俣をとらせてけり賀次よく引
て放たるにいふかことく緒付を射切て的土に落に
けり緒付いつれは矢数三に用るならひなれは三の
数を矢一筋にて持に成にけりとなむ/s258r

http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/258

1)
源むつる。458459参照
2)
「つかうまつりて」は底本「つかうまつて」。諸本により訂正。
3)
「すまさんがために」は底本「ままさんかために」。諸本により訂正
text/chomonju/s_chomonju350.txt · 最終更新: 2020/04/29 16:34 by Satoshi Nakagawa