text:chomonju:s_chomonju336
古今著聞集 武勇第十二
336 伊予守源頼義朝臣貞任宗任等を攻むる間・・・
校訂本文
伊予守源頼義朝臣、貞任1)・宗任2)等を攻むる間、陸奥に十二年の春秋を送りけり。
鎮守府を立ちて、秋田城に移りけるに、雪はだれに降りて、軍(いくさ)の男(をのこ)どもの鎧(よろひ)みな白妙(しろたへ)になりにけり。衣川の館、岸高く川ありければ、楯をいただきて甲(かぶと)に重ね、筏(いかだ)を組みて責め戦ふに、貞任等耐へずして、つひに城の後ろより逃れ落ちけるを、一男八幡太郎義家3)、衣川に追ひ立て攻め伏せて、「きたなくも後ろをば見するものかな。しばし引き返せ。もの言はん」と、4)言はれたりければ、貞任、見返りたりけるに、
衣のたてはほころびにけり
と言へりけり。
貞任、轡(くつばみ)をやすらへ、錣(しころ)を振り向けて、
年を経しいとの乱れの苦しさに
と付けたりけり。その時義家、はげたる矢をさし外して、帰りにけり。
さばかりの戦ひの中に、やさしかりけることかな。
翻刻
伊与守源頼義朝臣貞任宗任等をせむる間陸奥 に十二年の春秋をおくりけり鎮守府をたちて 秋田城にうつりけるに雪はたれにふりて軍のおのこ ともの鎧みな白妙に成にけり衣河の館岸高く川 ありけれは楯をいたたきて甲にかさね筏をくみて 責戦に貞任等たへすしてつゐに城の後よりのかれ/s245l
http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/245
おちけるを一男八幡太郎義家衣河においたて せめふせてきたなくもうしろをは見する物哉しはし 引かへせ物いはんといはんといはれたりけれは貞任見 返たりけるに 衣のたてはほころひにけり といへりけり貞任くつはみをやすらへしころをふ りむけて 年をへし糸のみたれのくるしさに と付たりけり其時義家はけたる箭をさしはつし て帰にけりさはかりのたたかひの中にやさしかりけ る事哉/s246r
text/chomonju/s_chomonju336.txt · 最終更新: 2020/04/24 22:52 by Satoshi Nakagawa