text:chomonju:s_chomonju334
古今著聞集 武勇第十二
334 嵯峨天皇をば人思ひかけ参らせたりけるに田村丸を近衛将監になし給ひて・・・
校訂本文
嵯峨天皇をば、人思ひかけ参らせたりけるに、田村丸1)を近衛将監になし給ひて、御身近く候ひければ、この官退(の)きて退出の時待ちけるほどに、少将になして、なほ祗候す。四位して退かむ時を待つに、中将になり、大将になりて、御身を離れ奉らざりければ、逆臣、思ひ寄らざりけりとぞ、申し伝へて侍る。
また、白河院2)、御代を筵(むしろ)のごとくに巻きて持たおはしましたりしが、なほ武者を立てて3)、およそたゆませおはしまさざりけり。仰せごとありけるは、「小一条院4)は、世のをこの人にてありけるが、頼義5)を身を放たで持たりけるが、きはめてうるせく覚ゆるなり。今はわれが侍へれば」とこそ、忠盛朝臣6)には仰せごとありけれ。
「さもあらむ武士一人をば憑(たの)みて、持たせおはしますべきことなり」とぞ、九条大相国7)の二条院8)へは申し給ひける。
翻刻
嵯峨天皇をは人思かけまいらせたりけるに田村丸を 近衛将監になし給て御身ちかく候けれは此官 のきて退出の時待ける程に少将になして猶祗候す 四位してのかむ時をまつに中将になり大将に成て御 身をはなれたてまつらさりけれは逆臣おもひよら さりけりとそ申伝て侍る又白川院御代を/s242l
http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/242
筵の如くにまきてもたせおはしましたりしか猶武 者をたてて凡たゆませおはしまささりけり仰事あ りけるは小一条院は世のおこの人にてありけるか頼義 を身を放たてもたりけるかきはめてうるせく覚ゆる也 いまはわれか侍へれはとこそ忠盛朝臣には仰事あり けれさもあらむ武士一人をは憑てもたせおはします へき事なりとそ九条大相国の二条院へは申給ける/s243r
text/chomonju/s_chomonju334.txt · 最終更新: 2020/06/20 23:44 by Satoshi Nakagawa