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古今著聞集 孝行恩愛第十
302 式部大輔大江匡衡朝臣の息式部権大輔挙周朝臣重病を受けて頼み少なく・・・
校訂本文
式部大輔大江匡衡朝臣の息、式部権大輔挙周朝臣1)、重病を受けて頼み少なく見えければ、母赤染右衛門2)、住吉3)に詣でて、七日籠りて、「このたび助かりがたくは、すみやかにわが命に召しかふべし」と申して、七日に満ちける日、御幣の紙垂(しで)に書き付け侍りける、
代はらむと祈る命は惜しからでさても別れんことぞ悲しき
かく詠みて奉りけるに、神感やありけん、挙周が病よくなりにけり。
母、下向して、喜びながらこの様を語るに、挙周いみじく歎きて、「われ生きたりとも、母を失ひては、何のいさみかあらん。かつは不孝の身なるべし」と思ひて、住吉に詣でて申しけるは、「母、われに代はりて命終はるべきならば、すみやかにもとのごとくわが命を召して、母を助けさせ給へ」と、泣く泣く祈りければ、神あはれみて御助けやありけん、母子ともに事故(ことゆゑ)なく侍りけり。
翻刻
式部大輔大江匡衡朝臣息式部権大輔挙周朝臣 重病をうけてたのみすくなく見えけれは母赤染右衛門 住吉にまうてて七日籠てこのたひたすかりかたくはすみ やかにわか命にめしかふへしと申て七日にみちける日 御幣のしてにかきつけ侍ける かはらむといのる命はおしからてさてもわかれんことそかなしき/s210l
http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/210
かくよみてたてまつりけるに神感やありけん挙周 か病よく成にけり母下向して喜なからこの様をかたる に挙周いみしく歎て我いきたりとも母を失ては何の いさみかあらんかつは不孝の身なるへしと思て住吉に 詣て申けるは母われにかはりて命終へきならは速に もとのことくわか命をめして母をたすけさせ給へと泣々 祈けれは神あはれみて御たすけやありけん母子とも に事ゆへなく侍けり/s211r
text/chomonju/s_chomonju302.txt · 最終更新: 2020/04/14 16:04 by Satoshi Nakagawa