text:chomonju:s_chomonju201
古今著聞集 和歌第六
201 和泉式部忍びて稲荷へまいりけるに・・・
校訂本文
和泉式部、忍びて稲荷1)へまいりけるに、田中明神のほどにて時雨のしけるに、「いかがすべき」と思ひけるに、田刈りける童(わらは)のあを2)といふ物を借りて来て参りにけり。下向のほどに晴れにければ、このあをを返し取らせてけり。
さて次の日、式部、階(はし)の方を見出だしてゐたりけるに、大きやかなる童の、文持ちてたたずみければ、「あれは何者ぞ」と言へば、「この御文参らせ候はん」と言ひてさし置きたるを広げて見れば、
時雨する稲荷の山のもみぢ葉は青かりしより思ひそめてき
と書きたりけり。式部、あはれと思ひて、この童を呼びて、「奥へ」と言ひて呼び入れけるとなむ。
翻刻
和泉式部しのひて稲荷へまいりけるに田中明神の程にて 時雨のしけるにいかかすへきと思けるに田かりける童のをと いふ物をかりてきてまいりにけり下向の程にはれにけれは此 あををかへしとらせてけりさて次日式部はしのかたをみいた してゐたりけるに大やかなる童の文もちてたたすみけ れはあれはなに物そといへは此御ふみまいらせ候はんといひてさし をきたるをひろけてみれは しくれするいなりの山のもみち葉は青かりしより思ひそめてき とかきたりけり式部あはれと思てこのわらはをよひておく へといひてよひいれけるとなむ/s144r
text/chomonju/s_chomonju201.txt · 最終更新: 2020/03/15 13:32 by Satoshi Nakagawa