text:chomonju:s_chomonju191
古今著聞集 和歌第六
191 公任卿の家にて三月尽の夜人々集めて暮れぬる春を惜しむ心の歌詠みけるに・・・
校訂本文
公任卿1)の家にて、三月尽(さんぐわつじん)の夜、人々集めて暮れぬる春を惜しむ心の歌詠みけるに、長能2)、
心憂き年にもあるかな二十日(はつか)あまり九日(ここぬか)といふに春の暮れぬる
大納言3)、うち聞きて、思ひもあへず、「春は三十日やはある」と言はれたりけるを聞きて、長能、披講をも聞き果てず出でにけり。
【さて、またの年、病をして、「限りなり」と聞きて、4)】人をつかはしければ、悦びて、「承り5)候ひぬ。この病は、去年の三月尽に、『春は三十日やはある』と仰せられしに、『心憂きことかな』と承りしに、病になりて、その後いかにももの食はれ侍らざりしより、かくまかりなりて侍るなり」と申しけり。さて、またの日失せにけり。
大納言、ことのほかに歎かれけり。これは、さうなく難ぜられたりけるゆゑにや。
翻刻
公任卿家にて三月尽の夜人々あつめてくれぬる春を おしむ心の哥よみけるに長能/s139l
http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/139
心うき年にもあるかなはつかあまりここぬかといふに春の暮ぬる 大納言うちききて思もあへす春は卅日やはあるといはれたり けるをききて長能披講をもききはてすいてにけり人を つかはしけれは悦てたまはり候ぬこの病は去年の 三月尽に春は卅日やはあると仰られしに心うきことかな と承しに病に成て其後いかにも物くはれ侍らさりしより かくまかりなりて侍也と申けりさて又の日うせにけり 大納言ことのほかになけかれけりこれはさうなく難せられ たりける故にや/s140r
text/chomonju/s_chomonju191.txt · 最終更新: 2020/03/12 12:56 by Satoshi Nakagawa