text:chomonju:s_chomonju189
古今著聞集 和歌第六
189 左京大夫顕輔新院に参りたりけるに百首詠むやうは習ひたるかと・・・
校訂本文
左京大夫顕輔1)、新院2)に参りたりけるに、「百首詠むやうは習ひたるか」と仰せごとありければ、「習ひたる3)こと候はず。顕季4)も教へずと申しければ、「まことにや、百首には同じ五字の句をば詠まざるなるは」と問はせ給ひければ、顕輔、「いかが候ふらん。百首まで詠むものにて候へば、詠みもやし候ふらん5)」と申しければ、「公行6)が詠まぬよしを申すなり」と仰せごとありければ、顕輔帰り、堀河院の御百首7)を引きて見るに、春宮大夫公実卿8)の歌に薄(すすき)・苅萱(かるかや)の両題に、秋風といふ第一句、さし並びてありければ9)、両首を畳紙(たたうがみ)に書きて、九月十三夜の御会に持て参り、公行卿に、「これ御覧候へ」と言ひたりければ、閉口せられにけり。
公行は公実の孫なり。用意あるべきことにや。
翻刻
左京大夫顕輔新院にまいりたりけるに百首よむやう はならひたるかと仰ことありけれはならひたれ事候はす顕季 もおしへすと申けれはまことにや百首にはおなし五字の 句をはよまさるなるはととはせ給けれは顕輔いかか候らん百首 まてよむものにて候へはよみもやしらんと申けれは公行かよ まぬよしを申也と仰ことありけれは顕輔かへり堀川院 の御百首をひきてみるに春宮大夫公実卿哥に薄苅萱の 両題に秋風といふ第一句さしならひてありけれ両首をた たうかみにかきて九月十三夜の御会に持てまいり公行卿に これ御らん候へといひたりけれは閉口せられにけり公行は公実の 孫なり用意あるへきことにや/s138l
text/chomonju/s_chomonju189.txt · 最終更新: 2020/03/11 21:58 by Satoshi Nakagawa