text:chomonju:s_chomonju188
古今著聞集 和歌第六
188 天暦の御時月次の御屏風の歌に擣衣の所に兼盛詠みていはく・・・
校訂本文
天暦の御時、月次(つきなみ)の御屏風の歌に、擣衣(きぬた)の所に兼盛1)詠みていはく、
秋深き雲居(くもゐ)の雁の声すなり衣打つべき時や来ぬらん
紀時文、件(くだん)の色紙形を書く時、筆をおさへていはく、「衣打つを見て、『打つべき時や来ぬらん』と詠ずる如何(いかが)」。兼盛にやがて尋ねらるる2)ところに、申していはく、「貫之3)が延喜の御時、同じ御屏風に駒迎(こまむかへ)の所に、
逢坂の関の清水に影見えて今や引くらむ望月(もちづき)の駒
と詠ず。この難ありや如何」。時文、口を閉づ。しかも時文は貫之が子にてかくなんそしりける。いといと浅かりけり4)。
翻刻
天暦御時月次御屏風の哥に擣衣の所に兼盛詠て云 秋深き雲井の雁のこゑすなり衣うつへきときやきぬらん 紀時文件色紙形をかくとき筆をおさへていはく衣うつを みてうつへき時やきぬらんと詠する如何兼盛にやかて たつらるる処に申ていはく貫之か延喜御時同御屏風に駒 迎の処に 会坂の関の清水に影みえていまやひくらむもち月の駒 と詠す此難ありや如何時文口をとつしかも時文は貫之 か子にてかくなんそしりけるいといとあさかりける/s138r
text/chomonju/s_chomonju188.txt · 最終更新: 2020/03/11 19:09 by Satoshi Nakagawa