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text:chomonju:s_chomonju185

古今著聞集 和歌第六

185 伏見修理大夫俊綱の家にて人々水上月といふことを詠みけるに・・・

校訂本文

伏見修理大夫俊綱1)の家にて、人々、「水上月」といふことを詠みけるに、田舎より上りたる兵士、中門の辺にてこれを聞きて、青侍を呼びて、「今夜の題をこそつかうまつりて候へ」とて、

  水や空空や水とも見え分かずかよひて澄める秋の夜の月

侍、このよしを披露しければ、おほきに感じあへり。その夜これほどの歌なかりけり。

同じ人2)、播磨国へ下りけるに、高砂にておのおの歌詠みけるに、大宮先生義定3)といふ者が歌に、

  われのみと思ひこしかど高砂の尾上(おのへ)の松もまた立てりけり

人々感じあへり。良暹、その所にありけるが、「女牛に腹つかれぬるかな」と言ひけり。

翻刻

伏見修理大夫俊綱家にて人々水上月といふ事をよみ
けるに田舎よりのほりたる兵士中門の辺にてこれをききて青
侍をよひて今夜の題をこそつかうまつりて候へとて/s136l

http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/136

 水や空そらや水ともみえわかすかよひてすめる秋のよの月
侍このよしをひろうしけれは大に感しあへりその夜これ
程の哥なかりけり
同人播磨国へくたりけるに高砂にて各哥よみけるに大
宮先生義といふものか哥に
 われのみと思こしかと高砂のおのへの松も又たてりけり
人々感しあへり良暹其所にありけるか女牛に腹つか
れぬるかなといひけり/s137r

http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/137

1) , 2)
藤原俊綱
3)
織部藤原義定。「義定」は底本「定」なし。諸本により補う。
text/chomonju/s_chomonju185.txt · 最終更新: 2020/03/06 18:40 by Satoshi Nakagawa