text:chomonju:s_chomonju170
古今著聞集 和歌第六
170 後三条院住吉社に臨幸ありける時に経信卿序代を奉られけり・・・
校訂本文
後三条院1)、住吉社2)に臨幸ありける時に、経信卿3)、序代を奉られけり。その歌にいはく、
おきつ風吹きにけらしな住吉の松のしづえを洗ふ白波
当座の秀歌なりけり、かの卿のちに4)俊頼朝臣5)を呼びて言はれけるは、「『古今集6)』に入れる躬恒7)の歌に、
住吉の松を秋風吹くからに声うちそふるおきつ白波
この歌、任大臣の大饗(だいきやう)せん日、わが所詠の澳津風(おきつかぜ)の歌、中門8)の内に入りて史生の饗につきなんや」と。俊頼いはく、「この仰せいかん。かの御歌またく劣るべからず。しかあれども、古今の歌たるによりて限りありて、まづ任大臣候はんに、御作は一の大納言にて、尊者として南階よりねり上りて、対座に居なんとこそ存じ候へ」と言ふ。帥のいはく、「さらばさもありなんや。いかがあるべき」とて、感気ありけり。
翻刻
後三条院住吉社に臨幸ありけるときに経信卿序代 をたてまつられけり其哥にいはく おきつかせふきにけらしな住吉の松のしつえをあらふ白浪 当座の秀哥なりけり彼卿ちに俊頼朝臣をよひて いはれけるは古今集にいれる躬恒哥に 住よしの松を秋風ふくからにこゑうちそふるおきつしら波 此哥任大臣の大饗せん日わか所詠の澳津風の哥中山 の内に入て史生の饗につきなんやと俊頼云この仰 如何彼御うたまたくおとるへからすしかあれとも古今の哥たる によりてかきりありて先任大臣候はんに御作は一の大納 言にて尊者として南階よりねりのほりて対/s126l
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座に居なんとこそ存候へといふ帥のいはくさらはさもあり なんやいかかあるへきとて感気ありけり/s127r
text/chomonju/s_chomonju170.txt · 最終更新: 2020/03/01 21:32 by Satoshi Nakagawa