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古今著聞集 和歌第六
161 永万元年九月十四日五更におよびて頭の亮の書札とて紙屋紙に立文たる文を・・・
校訂本文
永万元年九月十四日、五更におよびて、頭の亮1)の書札とて、紙屋紙(かみやがみ)に立文(たてぶみ)たる文を、頭中将家通朝臣2)のもとへ持(も)て来たりけり。開きて見れば、紅(くれなゐ)の薄様に歌を書きたり3)。
名に高き過ぎぬる夜半(よは)に照りまさる今宵の月を君は見じとや
筑前内侍・伊与内侍などのしわざにや、その使、返事を取らで逃げ帰らんとしけるを、侍どもさとりて、門をさして出ださず。やがて紅の薄様に返しを書きて賜はせける。
いかでかは伏屋(ふせや)にとてもくまもなき今宵の月をながめざるべき
かくなん書きて、もとのごとく紙屋紙に立文て使に返したびて、「月をも御覧ぜで、御よるなれば、この御文参らするに4)およはず。もし急ぐ事ならば、明日(あす)持て参れ」と言はせて返しけれ。使、しぶる気色ながら持て帰りにけり。いと興あることなりかし。
翻刻
永万元年九月十四日五更にをよひて頭亮の書札 とてかみやかみにたてふみたる文を頭中将家通朝臣 のもとへもてきたりけりひらきてみれは紅の薄様に哥を書たる 名に高きすきぬる夜はに照まさる今夜の月を君はみしとや 筑前内侍伊与内侍なとのしはさにや其使返事をとら てにけ帰らんとしけるを侍ともさとりて門をさしていた さすやかて紅のうすやうに返しをかきてたまはせける いかてかはふせやにとてもくまもなきこよひの月をなかめさるへき かくなんかきてもとのことくかみやかみにたてふみて使にかへし たひて月をも御らんせて御よるなれはこの御ふみまいらすると をよはすもし急事ならはあすもてまいれといはせて/s121r
返しけれ使しふるけしきなからもて帰にけりいと興あること なりかし同御時の事にやいろはの連歌ありけるにたれとかやか句に/s121l
text/chomonju/s_chomonju161.txt · 最終更新: 2020/02/27 23:48 by Satoshi Nakagawa