text:chomonju:s_chomonju155
古今著聞集 和歌第六
155 久寿元年二月十五日法皇美福門院御同車にて・・・
校訂本文
久寿元年二月十五日、法皇1)、美福門院2)御同車にて、鳥羽の東殿より勝光明院へ御幸ありて、庭の桜を御覧ぜられけり。まづ阿弥陀講を修せられける。
法皇、少納言入道信西3)を御使にて、御歌を内大臣4)・新大納言5)等に賜はせけり。檀紙に書きて、桜の枝に付けられたり。
内府に賜はせける御歌、
心あらば匂ひをそへよ桜花(さくらばな)後の春をばいつか見るべき
大納言に賜はせける御歌、6)
おのおの御返しを詠みて、もとの枝に付けて奉りける。
内府、
心ありて咲くてふ宿の花なれば末はるばると君のみぞ見む
大納言、
君が世の末はるばるに桜花匂はんことも限りあらじな
大相国7)、このことを聞き給ひて、二首を法皇に奉り給ひける、
桜花千束(ちづか)の数を数ふれば数も知られぬ後の春かな
限りありて常ならぬ世の花のみは千年(ちとせ)の後や西になるべき
翻刻
久寿元年二月十五日法皇美福門院御同車にて 鳥羽の東殿より勝光明院へ御幸ありて庭の桜を御 らんせられけり先阿弥陀講を修せられける法皇少納言 入道信西を御使にて御哥を内大臣新大納言等にた まはせけり檀紙に書て桜の枝に付られたり内府に たまはせける御哥 心あらはにほひをそへよ桜花のちの春をはいつかみるへき 大納言にたまはせける御哥 各御返しをよみてもとの枝につけてたてまつりける内府/s118l
http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/118
心ありてさくてふやとの花なれは末はるはると君のみそみむ 大納言 君か世の末はるはるに桜花にほはんこともかきりあらしな 大相国このことをきき給て二首を法皇にたてまつ りたまひける さくら花ちつかのかすをかそふれは数もしられぬ後の春かな かきりありてつねならぬ世の花のみは千年の後や西に成へき/s119r
text/chomonju/s_chomonju155.txt · 最終更新: 2020/02/25 13:46 by Satoshi Nakagawa