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text:chomonju:s_chomonju146

古今著聞集 和歌第六

146 同じ院東院にわたらせ給ひけるころ・・・

校訂本文

同じ院1)、東院にわたらせ給ひけるころ、弾正宮の上2)、同じく住み給ひけり。十首の題を賜はせて、人々に歌詠ませてつかはせ給ひ3)けるに、橘を詠ませ給ひける、

  宿近く花橘は植ゑてみじ昔を恋ふるつまとなりけり

なほ昔を思しける御心のほど、あはれなり。

また祝ひの歌に、弾正宮の上、詠み給ひける、

 万代(よろづよ)もいかでか果てのなかるべき仏に君は早くならなむ

この祝ひこそ、まことにあらまほしきことなれ。松竹にたとへ鶴亀によせて、千年(ちとせ)を祝ひ、万代を契りても、いかでか果てはなからん。まことに仏の道に入らんのみぞ、まめやかに尽きせぬ御祝なるべき。

翻刻

同院東院にわたらせ給ける比弾正宮のうへおなしく
すみたまひけり十首の題をたまはせて人々に哥
よませてつかはせけるに橘をよませ給ける
 やとちかく花橘はうへてみし昔をこふるつまとなりけり
猶昔をおほしける御心の程あはれ也又祝の哥に弾正宮
のうへよみ給ける
 万代もいかてかはてのなかるへき仏に君ははやくならなむ/s112l

http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/112

この祝こそまことにあらまほしきことなれ松竹に
たとへ靏亀によせて千とせをいはひ万代を契てもいかて
かはてはなからんまことに仏の道にいらんのみそまめやかに
つきせぬ御祝なるへき/s113r

http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/113

1)
花山天皇。145参照。
2)
花山院の異母弟為尊親王の王妃。
3)
底本「給ひ」なし。諸本により補う。
text/chomonju/s_chomonju146.txt · 最終更新: 2020/02/21 19:22 by Satoshi Nakagawa