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text:chomonju:s_chomonju100

古今著聞集 公事第四

100 建久のころ月輪の入道殿摂籙にて公事どもおこし行はれけるに・・・

校訂本文

建久のころ、月輪(つきのわ)の入道殿1)、摂籙にて、公事どもおこし行はれけるに、「近代、節会なども、上達部、物を食はぬこと、いはれなきことなり。古きにまかすべき」よし、沙汰ありけるに、三条左大臣入道2)の内弁の時、たつ3)に取りて召し給ひたりけるを、「職者のし給ふことなれば、やうぞ侍らん」とや思はれけん、諸人みな同じ物を食せられけり。次にまた、内弁、搗栗(かちぐり)を取りて召すよしして、懐中し給ひければ、人々みな、また同じ体(てい)とせられけり。

殿下4)、立ちのぞかせ給ひて、「何となく内弁のせらるることを、『かかるべき式ぞ』と心得て人々まねぶこと見苦し」とて、その後この沙汰とまりにけり。

翻刻

建久の比月輪入道殿摂録にて公事ともおこし
行はれけるに近代節会なとも上達部物をくはぬ
事いはれなき事也ふるきにまかすへきよし沙汰あ
りけるに三条左大臣入道の内弁の時たつ(きつイ)にとりて
めしたまひたりけるを職者のし給ことなれはやうそ
侍らんとや思はれけん諸人みな同し物を食せられ/s85r
けり次に又内弁かちくりをとりてめすよしして
懐中し給けれは人々皆又同していとせられけり
殿下たちのそかせ給て何となく内弁のせらるる事
をかかるへきしきそと心得て人々まねふ事見苦とて
其後このさたとまりにけり/s85l

http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/85

1) , 4)
九条兼実
2)
藤原実房
3)
未詳。底本「きつイ」と傍注。
text/chomonju/s_chomonju100.txt · 最終更新: 2020/02/01 22:27 by Satoshi Nakagawa