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text:chomonju:s_chomonju053

古今著聞集 釈教第二

53 大原の良忍上人生年二十三よりひとへに世間の名利を捨てて・・・

校訂本文

大原の良忍上人、生年二十三よりひとへに世間の名利を捨てて、深く極楽を願ふ人なり。日夜不断にもつぱら称念して、いまだ睡眠せず。生年四十六、首尾二十四年に至りて、夏月日中に、ただ仏力によりて、自心1)にまかせず、まどろみたる夢に、

阿弥陀仏示現云、「汝行不可思議也。一閻浮提之内三千界之間、已為有一。是可無双。雖然汝順次往生誠以難有之事也。所以者何、我土一向清浄之堺、大乗善根之国也。以少縁人難生。如汝行業雖経多生、未足往生之業因也。蓋可教速疾往生之法。所謂円融念仏是也。以一人行為衆人。故功徳広大。順次往生、已以易果修因。已融通感果。蓋融通一人令往生衆人。蓋往生」。阿弥陀如来示現、粗如此。委細不遑毛挙矣。
阿弥陀仏示現していはく、「汝が行不可思議なり。一閻浮提の内三千界の間、すでに一有りと為す。これ無双なるべし。然りといへども汝が順次往生、誠に以て有り難き事なり。所以(ゆゑん)は何(いか)んとなれば、我が土は一向清浄の堺、大乗善根の国なり。少縁の人を以て生じ難し。汝が如きは行業多生を経るといへども、未だ往生の業因に足らざるなり。蓋(けだ)し速疾往生の法を教ふべし。所謂(いはゆる)円融念仏これなり。一人の行を以て衆人の為にす。故に功徳広大なり。順次往生、すでに以て修因を果し易。すでに融通感果す。なんぞ一人を融通して衆人を往生せしめざる。なんぞ往生せざる。」。阿弥陀如来の示現、粗(ほぼ)かくのごとし。委細毛挙するに遑(いとま)あらず。

  天治元年(甲辰)六月九日    一乗仏師良忍

かく記し置かれたり。この後、あまねく勧進の間、本帳に入る所の人三千二百八十二人なり。

早旦に壮年の僧の、青衣着たる出で来たりて、念仏帳に入るべきよしを自称して、名帳を見てたちまちに隠れぬ。これ夢にもあらず、うつつにもあらず。上人、怪しみて、すなはち名帳を見るに、まさしくその筆跡あり。その字にいはく、「奉請念仏百反、我是仏法擁護者、鞍馬寺毘沙門天王也。為守護念仏結縁衆2)、所来入也。(奉請、念仏百反。我れはこれ仏法擁護の者、鞍馬寺の毘沙門天王なり。念仏結縁衆を守護せんがために、来入する所なり。)」。(五百十二人かくのごとく入り給へり)。

また上人、天承二年正月四日、鞍馬寺に通夜して念仏の間、寅の終りばかりに、夢に天王3)幻化(げんげ)のごとくして、自身と驚覚してのたまはく、「汝、如我身又梵天王等護正法、可奉加念仏帳中。我亦護汝如影随形。惣宜衆入結衆。諸神又不漏云々。(汝、我が身の如くはまた梵天王等正法を護り、念仏帳中に加へ奉るべし。我れまた汝を護ること影の形に随ふが如くせん。惣(そう)じて宜しく衆をして結衆に入らしむべし。諸神また漏らさず云々。)」。夢覚めて見れば、眼前にその文あり。梵天王・部類・諸天以下、一切諸王・諸天・九曜・二十八宿・惣じて三千大千世界乃至(ないし)微塵数、所有一切の諸天・神祇・冥道、一つも漏れず。おのおの百遍入り給へり。不思議未曾有のことなり。およそ勧進帳に入る所の人、三千二百八十二人の内、日時を注(しる)して往生を遂げたる者六十八人なり。

ここに上人、同じ月、春秋六十一にて、七ヶ日先立ちて、死期を知りて、つひに往生の素懐を遂げられにけり。入棺の時、その身軽きこと鵞毛のごとし云々。大原覚厳律師の夢に、上人告げていはく、「我遂本意、在上品上生。偏融通念仏力也云々。(我れ本意を遂げ、上品上生に在り。偏に融通念仏の力なり云々)」。

翻刻

国の郡司につかへて侍けるためしにおなしく侍り大
原良忍上人生年廿三より偏に世間の名利を捨て
深く極楽をねかふ人也日夜不断に専称念して/s50r
いまた睡眠せす生年四十六首尾廿四年に至て夏月
日中に只仏力に依て息にまかせすまとろみたる夢に
阿弥陀仏示現云汝行不可思議也一閻浮提之内三千
界之間已為有一是可無双雖然汝順次往生誠以難有
之事也所以者何我土一向清浄之堺大乗善根之国也
以少縁人難生如汝行業雖経多生未足往生之業因
也蓋可教速疾往生之法所謂円融念仏是也以一人
行為衆人故功徳広大順次往生已以易果修因已融
通感果蓋融通一人令往生衆人蓋往生阿弥陀如来
示現粗如此委細不遑毛挙矣
  天治元年(甲辰)六月九日    一乗仏師良忍/s50l

http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/50

かく記しをかれたり此後普く勧進の間本帳に
入所の人三千二百八十二人也早旦に壮年の僧の青衣
きたる出来て念仏帳に入へき由を自称して名帳
をみて忽にかくれぬこれ夢にもあらすうつつにもあら
す上人怪て則名帳をみるにまさしく其筆跡あり
其字曰奉請念仏百反我是仏法擁護者鞍馬寺毘
沙門天王也為守護念仏縁衆所来入也(五百十二人/如此入給へり)又上人
天承二年正月四日鞍馬寺に通夜して念仏の間寅の
終はかりに夢に天に幻化のことくして自身と驚覚し
ての給はく汝如我身又梵天王等護正法可奉加念仏帳
中我亦護汝如影随形惣宜衆入結衆諸神又不漏云々夢/s51r
覚てみれは眼前に其文あり梵天王部類諸天以下
一切諸王諸天九曜廿八宿惣三千大千世界乃至微塵
数所有一切諸天神祇冥道ひとつももれす各百遍
入給へり不思議未曾有の事也凡そ勧進帳に入
所の人三千二百八十二人の内日次を注して往生をと
けたるもの六十八人也爰上人同月春秋六十一にて
七ヶ日さきたちて死期を知て終に往生の素懐を
とけられにけり入棺の時其身軽こと如鵞毛云々
大原覚厳律師夢に上人告云我遂本意在上品上生
偏融通念仏力也云々/s51l

http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/51

1)
「自心」は底本「息」。諸本により訂正。
2)
「結縁」は底本「結」なし。諸本により補う。
3)
「天王」は底本「天に」。諸本により訂正。


text/chomonju/s_chomonju053.txt · 最終更新: 2020/01/19 13:49 by Satoshi Nakagawa